歴史上の人物の説明として生没年は基本的事項となる。いつ生きていたかによって、その人物が関わる人物や事件の評価が変わってくることもままある。例えば、「北条早雲」として知られる伊勢宗瑞はかつて永享4年(1432)誕生とされてきた。この通説に従うと、宗瑞が世に出たのは50歳を超えてからで、その後88歳で死去するまで第一線で戦い続け戦国大名後北条氏の礎を作り上げた生涯現役・大器晩成型の武将となる。しかし、近年では今川氏親の母である宗瑞の姉妹が「姉」とされることや享年88歳説が近世以降の所説であること、新出の系図史料などから、宗瑞の生年は康正2年(1456)説が支持されている。すると、宗瑞の活躍も30代~50代という常識的範疇に収まる。こうなると、もはや大器晩成は成り立たず人物像はだいぶ変わることになる。
一方で、この宗瑞の例にも見られるように没年はともかく生年はおぼつかない事例が多い。生まれた時から著名な人物、あるいは生まれがその後伝説化される人物は歴史上有名であっても多くはないからだ。実際、本記事で取り上げる人物たちも一般にはマイナーな人物たちでこれまでは生年の手掛かりすらなかった。
「だが…今は違う!」
…すみません、言ってみたかっただけです。何のことはなく、近年翻刻が進んでいる天理本『兼右卿記』は記手である吉田兼右が祈祷を専門にしているためか、依頼主の年齢を記していることが多く、それによって多くのあの歴史上の人物の生年が特定できるようになった。ありがとう吉田兼右…ありがとう天理図書館の翻刻人(岸本眞実先生・澤井廣次先生)たち…。
※なお本記事での引用は全て『兼右卿記』なので出典記載は省略し、年月日条のみ記すものとする。
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