志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

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『ウマ娘 プリティーダービー Season3』感想(第1話~第4話)―ロストシャインから空のほほえみ方へ

 『ウマ娘』にハマったのは2021年後半なのでメディア展開との付き合いがなかったが、ネット配信のRTTTを経ていよいよアニメウマ娘3期!RTTTも決して小さくはなかったが、3期はメディアミックスとしてはより大きなものとなる。放送開始前に明かされていたメインキャラクターたち、キタサンブラックサトノダイヤモンドサトノクラウンシュヴァルグランサウンズオブアースは全員ウマ娘初報時にはいなかったウマ娘たちな上、後者3人は本作が初のメイン登場になる。新時代到来的なフレッシュさはもちろん、何よりも気になったのは明らかに何か隠していることだった。2.5周年アニバでは新ウマ娘の発表がサウンズオブアースに留まっていたのに、ゴールドシップ役の上田瞳さんのたくさんの新しいウマ娘が登場するという発言や、3期コラボ商品でキタサト以外のラインナップが全くのシークレットであったこと、放送前PVでのレースシーンでは巧妙にそのレースにいるはずのドゥラメンテが隠されているなど、具体的に言えばドゥラメンテウマ娘化するのではないか…」という期待を持たせる(でも無理なんじゃないか…)作りを見せていた。
 そもそもウマ娘といえば、競走馬の史実をベースにしつつ、キャラクター同士の関係性などで史実をなぞったり、逆に覆したりする展開が売りだ。もう100人近いウマ娘がいる中、何が起きてキタサンブラックらの物語が紡がれるのか、最初から予測はできない。こうした点も4話だったRTTTとの違いで、本放送のたびに予告が公開されるたびに、ワクワクさせる作りになっている。そういうわけなので感想記事を順次認めることにした。

  • 第1話「憧れた景色」

 いきなり皐月賞でございますが、ドゥラメンテが登場!個人的にはドゥラメンテ登場は大ネタなだけにもっと満を持してかと思っていたのに、前からいましたが的に作中では存在が前提になっていてたまげた。早朝に起きて寝ぼけ眼だったのもあり、ドゥラメンテが存在するのが現実なのか夢なのか…もうわからなかった。
 お話としては、キタサンブラックへの入念な挫折の見せ方がね…良かったというか、よくこんな描き方するよね…。突然の投入だったドゥラメンテだったが、彼女こそが「トウカイテイオー」―「憧れた景色」を体現する存在であることをキタサンブラックにわからせるための1話。皐月賞の「負けちゃったー!!?」がギャグ的だったのも、ダービー前にお祭りで心を奮え立たせたのも、それでもダービー敗北後の「…負けちゃった」のためだけにあった。しかも挫折EDとして「ロストシャイン」という新曲まで用意してきたのだから恐れ入る。いや今回しか使いどころないだろうに新曲!?ライブで妃菜喜ちゃんはどんな顔してこれ歌わされるんだよ…。
 その一方で憧れのテイオーが「自分らしく、ね」と言ってくれたことは救いへの導線でもあった。キタサンブラックは「トウカイテイオー」になる必要はない。「憧れた景色」とは第1話で決別する。「キタサンブラック」になるための物語は始まったばかりだ!

  • 第2話「スタートライン」

 1話で「憧れた景色」になれないことを思い知ったキタサンブラックがどう「キタサンブラック」になっていくかが肝だと予想したが、2話目でいきなり解決してしまった。しかし、それがドゥラメンテの怪我を聞いた際のチームスピカとの反応の齟齬(「戦えなくて悔しい」か「出ないなら勝てる」か)に、ナイスネイチャの寄り添いを受けてのものになるのは新鮮だった。キタちゃんは考えてみれば、何かすごい目標を持っているわけではなかった。そんなキタサンブラックがなぜ主役なのか。そこにスピカとは違う等身大なこと、他の人の想いを受けられることを持ってきたのは本作の意義に直結する問題なので、その一端を早くも示してきたのは良かったと言うべきだろう。
 加えると、ナイスネイチャは2期のメインキャラの1人ではあったし、菊花賞有馬記念で熱いところも見せてくれたが、「テイオーの物語」にコミットできていたかと言うとそうでもなかった。そして結局GⅠも勝てなかったわけで、何かを達成できたということもなかったのだった。そんなネイチャさんが2期があったからこその言葉でキタちゃんを鼓舞し「キタサンブラックの物語」に欠かせない重要なピースになった。そしてキタサンブラックはGⅠを勝っていく。シーズンを超えて「報い」があったのは本当にうれしかった!

  • 第3話「夢は終わらない」

 唐突としか言いようがないゴールドシップラストラン回。衰えが見えてきたゴルシが有馬記念で有終の美を飾れなかった中でキタサンブラックに何を残し何を託すのかというのは、確かにキタサンブラック主役の本作でこそだろう。…ただ、ゴールドシップはこれまでウマ娘のどの媒体でも史実を元にした現役生活は描かれていなかった。そんな中で、最盛期は追い込みがバッチリ決まってたのに、最近は出来なくなってきたという話をされても感情移入は難しい(もちろんレース動画や知識としては知っているが、ウマ娘としては何も知らん…)。今回ゴールドシップは終始真面目にやっていたので、ネタとして流せるということもなく、どうにも気持ちが落ち着かない回だった。オルフェーヴルジェンティルドンナという名前も登場し、今後ゴルシ周りのウマ娘も充実するだろうので、改めて史実に基づいたゴールドシップの物語が見られることを望みたい。

  • 第4話「あたしだけの輝き」

 有馬記念後勝ちきれないレースが続くキタサン。ネイチャから体の丈夫さを指摘されたキタサンはハードトレーニングに望むがそのコーチに現れたのはミホノブルボンであった!いやこれは虚を突かれました…。予想としてはキタちゃんには史実でいう武豊インストールというパワーアップイベントがあると思っていて、そこでスぺちゃん・スズカさんといった武豊先輩が有機的な働きをするというのものがあったので、ブルボン(とライス)が特訓相手として現れたのは初見で上手く消化できなかった。しかし、噛んでいるうちに深い滋味が出てきた。スプリンターを予想されながらクラシック戦線で活躍した逃げウマ娘で、怪我によって競争人生を後にしたブルボンは確かにキタちゃんの導き手としてかっちりハマる。予想は外れたがその手があったかーと思わせる心地の良い裏切りだった。
 加えて、特訓内容もただ体を鍛えるだけでなく、その本当の狙いが勝ち切る精神力というのも良かった。このおかげでネタ臭い特訓内容におかしいと思うこともないし、勝ちきれない→春天ではハナ差1着勝利というエンディングの間の承転としてもちゃんと成立している。他には怪我のリスクに躊躇を見せる沖トレを後押しするのがスズカさんとテイオーという怪我に泣いたコンビなのも、ウマ娘を第一に考えるトレーナーと強くなりたいバトルジャンキーウマ娘の性質を両立させつつ、キタちゃんの特訓に導いていて上手に作ったなあといったところでした。
 そして最後に特訓から春天までに流れたのが「空のほほえみ方」。4話目でもう特殊エンディングかつ新しい歌を引っ提げてきた。妃菜喜ちゃんにどんだけ歌を歌わせるつもりなのか…。はともかく、毎回レースをしつつそこまでリソースを割けないという中で上手いこと仕上げてきたという感じ。これにて主人公としてのキタサンブラック造形は一先ず完結といったところでしょうか。

  • 「ソシテミンナノ」「アコガレChallenge Dash!!」その他

 主題歌とエンディングテーマは2話から。「ソシテミンナノ」はすでに曲名が明かされていて、「そしてみんなの愛馬になった」が元になっているとすぐにわかった。なので、キタサンブラックをテーマにした歌詞になるかと思っていた。ところが実際には、音楽は「Make debut!」をベースに「GIRLS' LEGEND U」のエッセンスを合体させた趣で、特に「勝ちたい」を連呼してくるのは途方もない熱さに驚いてしまった。迷いもなくなりふりもなく、善戦も健闘も認めない、あくなき勝利への渇望。プリティー要素どこ…?おそらくこの歌が本作の最後にも流れるのではないかと思っているが、この歌はあまりにも「そしてみんなの愛馬になった」にはそぐわない。どう使われていくのか、本作の主題歌として適しているのか、目が離さない。
 EDの「アコガレChallenge Dash!!」は打って変わって、映像とともに「グロウアップ・シャイン!」を思わせる陽性な曲。スピカメンバーで歌っていることもあって、キタちゃんが名実ともにスピカに入ったことを印象付けるような歌になっている。3期は2期との連続性を重視している作風だが、OP・EDはともにどちらかというと1期をイメージさせるものが多い。
 挿入歌の「ロストシャイン」「空のほほえみ方」にはたまげた。どちらもキタサンブラックが初めて単独で歌うものとなるが…どちらもよくあるようなキャラソンではない。キタサンブラックというキャラクターを十二分に歌い上げるものではなく、その時のキタサンの心情を残酷までに表現するものになっている。この贅沢さは前述したが、それだけに演者の矢野妃菜喜ちゃんの声がよく聞こえる。個人的にキタサンブラックの声と妃菜喜ちゃんの地声は全然違って聞こえるのだが、「ロストシャイン」は真に迫っているだけ、キタサンの声と妃菜喜ちゃんの地声が通じ合っている感覚があって貴重な体験だった。

第1話から第4話までを振り返って

 とりあえずキタサンブラックとしての主観的な自立を終えたといったところだろうか。ここまでメインはほぼキタちゃんで、ダイヤちゃんすらあまり出番はなく、クラちゃん・シュヴァルもキャラクターはアプリでの出番以下、ドゥラメンテに至ってはまともに言葉も発していない。新キャラの織りなすフレッシュな6人の群像劇という点で言うと、全然そうはなっておらず不満がある。
 ここまでキタちゃんで描かれてきたことは、同期の主人公に引け目を感じGⅠを勝てなかったネイチャさん、衰えで有終の美を飾れなかったゴルシ、怪我によって競争人生を断たれたブルボン…そういった先輩たちから思いを受け取って自分の力にしてきたことだった。ネタバレになるが、キタサンブラックが皆の愛バになったラストラン・有馬記念というゴールが確かに見えてくる。キタサンブラックが「そして皆の愛バにな」るためには、どうしてもここは必要だったので「憧れた景色」との決別からと再起に合わせて上手に伏線を敷いていると言えるだろう。
 また、ネイチャやブルボンの登場は思った以上に2期からの地続きさを示していた。2期も視聴済でネイチャもブルボンも好きな身としてはもちろんうれしいのだが、先述のように新しいウマ娘の活躍が見られると思ってたところからはギャップがある。とは言え、流石にこのまま行くはずがない(メインウマ娘の声優さんたちもちゃんと自分のキャラをアピールしているし)。5話からはドゥラメンテとも再び邂逅することになるし、キタサンの自立で2期とのバトンタッチも一区切りではなかろうか。今後はライバル同士バチバチしあう、まさしく「ソシテミンナノ」の歌詞にふさわしい展開になっていくのだろう。
 一方で、今後解消されるかわからない不満もある。現状、キタサンブラックがスピカに所属している意味があまりにも乏しい。スピカの先輩たちは、3話でメインを張ったゴルシを除いて賑やかし以上のものではないし、テイオーもキタちゃんを信頼し見守っていると言えば体はいいが、実際何かをしているわけでもなく、同じチームに属している化学反応は今のところない。これなら正式にネイチャさんの後輩としてカノープスに所属し、チームにGⅠタイトルを届け妥当スピカを果たすとかの方が、チーム制の描き方としては実があったようにも思えてしまう。思えばスピカも、トレーナーを入れると9人もいるわけで全員をちゃんと動かすのは不可能だし、例えばダイヤちゃんもスピカ入りさせて「友達以上仲間でライバル」させればいいわけでもない。スピカでやっていく限界がわかりやすく見えてしまったわけで、今後の展開でキタちゃんがスピカに入れて良かったと思える瞬間があるのかはだいぶ不安なところではある。
 新ウマ娘としては、鮮烈デビューとなったドゥラメンテの他にカノープス新入りの「~ス」やOP映像で登場した推定ヴィルシーナと推定ヴィブロスというシュヴァルグランの姉妹に、名前だけ出てきたオルフェーヴルジェンティルドンナと3話までは毎回サプライズ的に新顔が登場した。その一方で、リアルスティールが偽名に留まったのは彼もウマ娘化に足る競走馬人生だと思ってたのでちょっとショックだったし、予想していたサトノ家周りは現状クラウンからの追加はない。後者については今後登場してくる可能性もある(ただ今後出る予定があるのなら、シュヴァル姉妹みたくOPで顔見せするんじゃないのかな)が、ここまでのチームカペラの応援やトレーニングのシーンで不在なのは現時点でもだいぶ苦しい。サトノアラジンなどはサトノのジンクスの語り部としてうってつけの経歴を持っていると思うのだが、現状出ていないのでサトノのジンクスもダイヤちゃんやクラちゃんだけが勝手に言っているだけに見えてしまう。それでなくともダイヤちゃん周りは同期のウマ娘化が乏しくスカスカなので、本作に間に合わないのはもはや仕方ないかもしれないが、今後何とかしてほしいところではある。
 とは言え、今後も新しいウマ娘が出てほしいかというと、それはそこまでといった心境。ここまでメインのウマ娘たちを描けているわけではないので、役者を増やしている余裕もなかろうし、サプライズは強烈なだけにドラマをぼやけさせる。今後はメインのウマ娘たちの関係性に注力してほしいのが本音で、そのためのキャラなら歓迎だが、きちんと取捨選択はあってほしい。リアルスティールは食い込めたような気もするが、マリアライトマカヒキが偽名なのはその点で言うと致し方ないだろう。
 最後に、本作はウマ娘のアプリ配信後初のTVアニメシリーズになる。ウマ娘の世界観の描き方はアニメが先行していたが、2期以降はアプリでの育成シナリオやイベントストーリーがリードしている。そうした中でアニメがアプリの描写をどう反映してくるのかは気になっていたところだったが、トレーニングは演出をそのまま使ったりしていてちゃんと取り込む姿勢があって面白かった。2話のアイキャッチがアプリの別衣装であるチアのネイチャさんだったのも良い逆輸入(?)だった。こうした目先の変え方は今後もやってほしいところ。