志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

怪獣monsterのコンテンツを中心に興味の赴くままに色々と綴っていくブログです。

池田教正―受け継がれる河内キリシタンの記憶

 戦国時代は世界的には大航海時代と重なっている。ヨーロッパ世界の航海技術が著しく進歩して、ヨーロッパ世界から直接的に人物や文化が流入することが可能となった。そのヨーロッパ世界から最も遠かった国の1つが日本であった。しかし、その日本へも1540年代にはヨーロッパ世界から人物が到来するようになる。当初は九州を中心にして日本列島の人々は大なり小なりヨーロッパ人と交渉を持ち、興味を示すことになる。その結果としてヨーロッパ人が持ち込み布教を行おうとしたカトリックに入信する者たちも出てくる。彼らが真に教義を理解していたかどうかは一概には言えないが、それは間違いなく戦国時代から江戸時代初期を彩った一つの時代の形であった。
 キリシタンは地域などで一つの人脈を作っていく。1560年代からは畿内におけるカトリックの布教が活発化し、多くの貴顕にキリシタンが生まれた。彼らは相互に関係しあっており、特に河内国を中心にした人的結合は「河内キリシタンとも呼ばれている。その動向は三好、織田、豊臣といった中央政権の主宰者たちにとっては無視できないものであり、歴代の政権は彼らを有効活用もしていた。その「河内キリシタン」の代表者とも言えるのが池田教正である。教正は何を行い、何を遺したのか?これを探ることが「河内キリシタン」の時代が確かに存在したことを明らかにする大きな鍵になるだろう。

  • 摂津池田氏と池田教正
  • 「河内キリシタン」の誕生と池田教正
  • 三好家の争乱と池田教正
  • 元亀の争乱と池田教正
  • 若江三人衆としての池田教正
  • 豊臣政権と池田教正
  • 池田教正の「後裔」
  • 参考文献
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中脇聖編著『家司と呼ばれた人々』感想

 近年歴史関係の本は充実していっている。背景として研究の深化があることは間違いないが、一昔前だとなかなか出ないようなテーマでの一般書が出版されている。出版不況が叫ばれて久しい中、マイナー気味なテーマでの出版が可能であることは、それだけでありがたいが、同時に需要自体が広がっているからこそでもあるのだろう。こうしたWIN-WIN関係が拡大しつつ継続していってほしいものである。
 というところで近日発売されたのが『家司と呼ばれた人々』である。『伝奏と呼ばれた人々』の続編(?)的著作である。いやあスゴイ。一般人対象にアンケートとっても「伝奏」も「家司」も何なのかわからない人が多いのではなかろうか。それでも伝奏は「武家伝奏」という単語が朝幕関係では出来するのでまだ知っている人もいるかもしれない。これが家司となると完全に公家社会の中で完結してしまう存在(に見える)なので、公家社会にわざわざ突っ込んでいかないとわからない。そもそも鎌倉時代以降の公家社会というのは教科書でも触れられないし、それもあって一般的に影が薄い。私自身、家司って何?と問われても「公家に仕える公家」程度の合ってるかどうかの確信がない答えしか示せない。ましてや、具体的に活躍した家司など1人も名前を挙げて説明できない。私の不勉強さゆえだが、歴史ファンでもこういう人は多いのではなかろうか。
 そんな中彗星の如く、家司とは何ぞや?を提示する一般書が出るのだから、偉大と言うほかない。需要は完全に未知数だったはずである。知らないことを知る機会を与えてくれたことに感謝である。
 編著者の中脇聖氏は土佐一条氏の研究を本分としていらっしゃる研究者で、土佐一条氏から派生して行く形で長宗我部氏や明智光秀についても書かれている。編著を引き受けているのは、序章によると氏が今回の企画の仕掛け人だからということらしい。ところで、氏は年来土佐一条氏を「公家大名」や戦国大名の一種とする見方を否定し、あくまでその存在は在国の公家であったと位置付けている。すなわち、何が公家であり、何が大名なのか?ということに常人より敏感であり、特に公家の組織について碩学であるということになるだろう。家司とは何か?という命題を切り拓いていくことに適任者と言えるのではなかろうか。

家司と呼ばれた人々:公家の「イエ」を支えた実力者たち

家司と呼ばれた人々:公家の「イエ」を支えた実力者たち

  • 発売日: 2021/01/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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三好家から見た「麒麟がくる」

 麒麟がくるはかなり久々にちゃんと視聴している大河ドラマになっている。こんなにちゃんと観てるのはたぶん「真田丸」以来か…ってめっちゃ最近(4年前)じゃねーか。でもまあそれ以前となるとたぶん「風林火山」あたりまで遡ってしまうのでかなり久しぶりな心持ちもそこまで誤った感覚ではあるまい(一応間のものも断片的に視聴するなどはあった)。
 久しぶりに大河ドラマに興味を持ったのはある程度畿内戦国史がやれる久々の土壌だったことが大きい。戦国時代ものはここ10年でいくつもあるが、地方が舞台であったり、織田信長豊臣秀吉中心のストーリー作りだと畿内の武将らは敗者と言うか退場すべき存在以上に造形されない問題がある。そういうわけで畿内戦国史にある程度フォーカスできるストーリーと大河ドラマはあまりめぐりあってこなかったのである。特に「麒麟がくる」は放送前から室町幕府の終焉を描く」「最新研究を取り込む」「織田信長を単なる革新として描かない」旨を明言していた。畿内戦国史研究はここ20年で飛躍的に進歩した分野であるのでそれらを取り込んだ「新しい」ドラマになることが期待されたのである。
 と、ここで一つ。大河ドラマは史実再現VTRでもなければ、最新研究開陳場所でもない。45分×40回以上の時間で紡がれるドラマを楽しむものである。だから、松永久秀が主家三好氏に下剋上をするような悪人で最期が爆死であっても、そのドラマの中でのキャラクターが一貫し、視聴者に面白さを提供できれば良いのであって、史実と違うと口を挟むのは本来当たらない行為である。
 ただし、だからと言って、史実を完全に無視してしまって良いわけでもない。特に大河ドラマは、これまで基本的に史実に則ってきたことが、そのブランドでもあった。過去の大河ドラマもこの点はやや危ういところもあった(主人公が不自然に歴史の重大な舞台に参画してキーキャラを演じるなど)が、概ね大きな史実を曲げていない、と思われる。だからこそ、近年の歴史研究を反映した歴史像、人物像の変化には無縁ではいられず、それを取り込むことも求められる。
 製作者は、第一にドラマとしての面白さを追求しつつ、歴史再現としておかしくないものを目指すのが、「大河ドラマ」と言えよう。ただ、これがよく出来すぎると、ドラマの人物造型や展開が「史実」と見なされる向きもあるし、実際この記事での評価も双方の視点が混在してしまっているが…ご海容願いたい。

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明智光秀と松永久秀の関係

 大河ドラマ麒麟がくる明智光秀が主人公のドラマだが、松永久秀の存在もそのドラマを彩っていた。何せ、久秀は第1話から登場し、最終回の5話前である第40話まで出演し続けた。もちろん間に出ていない回も多いが、間違いなく松永久秀は主要登場人物であった。人物紹介における「したたかな生き方で、若い光秀に大きな影響を与える」の通り、久秀は光秀の戦国人としての先輩であり、教師でもある存在と言って過言ではない。
 ドラマの中では、久秀は斎藤道三の家臣であった光秀を初見で気に入って鉄砲を融通したり、光秀が三好長慶重臣である久秀に働きかけて織田信長暗殺を阻止するなど、明智光秀が大きな存在となる以前から久秀との交流が描かれていた。当然のことながら、これらのドラマは史実ではない…と言うか、明智光秀が史実に姿を現すのは、足利義昭織田信長が上洛を目指す頃からなので、それ以前にどこで何をしていたのかはわからず、何とも言えないのであるが。
 それでは、史実における光秀と久秀はどのような関係だったのだろうか。永禄11年(1568)に成立した足利義昭室町幕府幕臣として、明智光秀の名前が現れはじめる。松永久秀も幕府を支える大名であったので、光秀と久秀には面識があったと見なすべきだろう。元亀2年(1571)に松永久秀高槻城を包囲した時には、光秀が調停役として赴いてもいるので、顔見知り以上の関係もあった。そういう意味では、(あくまでドラマで、ということではあるが)光秀と久秀が知人であり、それは古くからのものと描くのも、脚色としては十分アリな部類となる。

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『ウルトラマンZ&ゼロ ボイスドラマ』のウルティメイトフォースゼロ

 ウルトラマンシリーズにおけるボイスドラマの取り組みは『ウルトラマンタイガ』から始まった。発想元としては『SSSS.GRIDMAN』のボイスドラマがあり、本編の補完などを有意義に行い好評を得たことにあると思われる。近年はウルトラマンシリーズでも有名・人気声優が演じるキャラクターが多く、スピンオフとしては絶好の展開だったと言える。『タイガ』に続き『Z』でもボイスドラマが継続したことは製作側が手応えを感じている証左だろう。
 さて、『タイガ』では主役ウルトラマン3人(トライスクワッド)全員が声優キャラだったこともあり、3人の過去話や本編で出た事象の補完などがなされた。一部、デザイナーの後藤正行氏による描き下ろしイラストも掲載されたものの、ボイスドラマらしく基本的には声だけでドラマが展開した。これに対し、『Z』ではメインキャラクターで声優キャラはウルトラマンゼットだけで、本編と連動するというよりも、ゼットが光の国にいたころの他愛ない話をウルトラマンゼロとの掛け合いで展開するというものになった(また、『タイガ』と異なり、声オンリーではなく、写真を組み合わせることでリアクションを表現することになった)。…ということは、環境として『タイガ』よりもゲストの飛び入り参加が望みやすいということになる。私にとってはウルティメイトフォースゼロの参戦にも期するものがあり、(より一層)注視することになったのである。

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和泉下守護細川家列伝

 そう、僕は気付いたんだ。ずっと宿題忘れてた…ではなくて、和泉下守護家の(正確な)系譜がネット上にも手頃な本にも転がっていないことに。ぶっちゃけローカルなネタはこういうことが多い。そもそもとして、少し大きな通史として展開されると書き飛ばされてしまうくらいの話なのである。その時の和泉下守護が誰であったか、どのように動いたのか。畿内史であっても、そんなことは書かなくても政治史・文化史は成り立ってしまう。そんな叙述が定着しているのだから、和泉下守護の系譜が研究が進展しても周知されないのは当然なのである。今後も和泉下守護をメインに据えた図書は研究書ですら出る可能性は低いのではなかろうか。
 しかし、だからと言ってこのような状況で放置されて良いわけではない。近年のレベルの高い研究書や概説書であっても、こうしたローカルネタに触れる際、ふっと旧説が出てしまうことがある。こうなると「この人はこの分野では最新鋭だけど、それ以外の最新研究は共有していないのだな」と思ってしまい、とても惜しい(もっともこの点に関しては私も人の事をとやかく言えるものではなく、他山の石としたいものである)。和泉は五畿内を構成する要国である。にも関わらず、どうであったのかが今一つ共有されていないと、ボロが出るのはここから…ということになりかねない。そういうわけで、和泉下守護について、現在の系譜や論点を試みにまとめてみた。
 正直どこからどこまでまとめるべきかは悩んだ。偉そうなことを言いつつ、旧説を引っ張っているかもしれないし、重大な誤謬や見当はずれな問題提起をしているかもしれない。そういった箇所はご叱正を賜りたい。そもそも素人の私がまとめなくても、偉い先生が本出してくれよと言いたい気持ちもあるが…

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「ウルティメイトフォースゼロ~Side Story~」感想(1)+心構えについて

 ウルトラマンゼロ10周年記念生配信トーク番組「ウルトラマンゼロ TALKish」にて、目玉の一つとして発表されたのがTSUBURAYA GALAXY内連載小説「ウルティメイトフォースゼロ~Side Story~」でした。TSUBURAYA GALAXYは円谷作品をより楽しむための有料サイトで、限定コンテンツも多くあります。そうしたものの一つとしてウルティメイトフォースゼロが抜擢されるのは、「金になる」と見なされているということで、若干の安堵がありますね(私もまんまと釣られているので大成功ですね!?)。
 さて、内容としては『ウルトラゼロファイト』と『ウルトラマンジード』の間を埋めるオリジナルストーリーと宣伝されています。全6話でウルティメイトフォースゼロの各員が主役のストーリーが1話ずつ紡がれる模様です。書き手は池田遼氏。正直この手のものは足木淳一郎氏がよく書かれている印象があったので、池田氏というチョイスは少し意外でした。とは言え、池田遼氏も『ウルトラマン列伝』以来総集編構成などを歴任しておられますし、特にハズレというわけでもないですね。
 そういうわけでウルティメイトフォースゼロの新たな物語が始まることになり、基本的にとても喜ばしいということになったわけです。ただし、「基本的に」は含みがありまして、読み込むにあたって不安と言いますか、心構えが必要なこともあります。まずはそういったことから語っていこうと思います。
 周知の通りウルティメイトフォースゼロは『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』で初登場しました。この映画は製作期間が短く、そのため監督を任されたアベユーイチ氏が脚本も手掛けています。つまり、『ゼロTHE MOVIE』のストーリーライン、キャラクターに占めるアベ監督の比重というのはものすごく高いわけです。しかも、アベ監督は大変魅力的なアイデアマンで、『ゼロTHE MOVIE』についても世界観やキャラ設定に深く関与する裏設定を豊富に持っています。公認トークイベントなどでその一端をお聞きしたこともあるのですが、アナザースペースにおける世界観の成り立ち、「あれはそういうことだったのか」というものがわんさかでした(ちなみに当たり前ですが、内容は口外できません)。

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