志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

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安土城考古博物館・春季特別展示「戦国時代の近江・京都―六角氏だってすごかった!!―」

 安土城考古博物館・春季特別展示「戦国時代の近江・京都―六角氏だってすごかった!!―」を観に行ってきました。
azuchi-museum.or.jp

 六角氏の最新研究を詰め込んだ『六角定頼』が発売されて早3年!ようやく博物館展示でも六角氏をテーマにしたものが現れましたね。安土まで行くのは微妙に遠いし、JR線でも新快速が草津野洲が終着だったりしてややこしいですが、これは是非観に行かなければ、ですよね!
 JR安土駅から考古博物館まで2キロ弱くらいはあるので、歩いていくには楽ではないですが、周りは山と田畑が主で、考古博物館周辺はモダンな建物なので、田畑まで出てしまうと目的地はもうはっきりと見えます。まあ目的地が見えてるのになかなか着かないなって気持ちにもなってしまうんですが…。さらに畑道が考古博物館までまっすぐ伸びています。わかりやすいですね。

 建物自体はそれなりですが、中の展示空間は常設展示室が2つと企画展示室が1つ。私は京都市内の博物館に親しみがあるので、それに比べると小規模な感想があります。しかし、第一常設展示室は滋賀県古墳時代について、第二常設展示室は近江の戦国権力を扱っていて充実しています。この博物館は「考古」も入っていますし、戦国時代についても織田信長オンリーというわけでもなく、「安土城」を冠しながらそれを看板に沼に引き込むような試みですね。特に第一は副葬品や石室の再現が具体的なビジュアルを持たせてくれるし、第二も安土城をテーマにしつつ観音寺城小谷城も紹介することで、戦国期の城とは何か、安土城は何がすごいのかがわかりやすいものになっています。こうして常設からも六角氏をある程度売り込んでいるわけで仕掛けを感じます。
 そしていよいよ特別展示に突入!お!おお!?これは…すごかった!!
 まず、一つ目のすごいポイントとしては、展示の解説役が「亀」なる小坊主であることです。彼は六角氏の次男で僧籍に入ったけど、その後兄が亡くなったため還俗した人物で、かなり可愛らしくデフォルメされています。うーん、一体誰?*1でも彼がいちいち展示資料の補足解説を担当していて初心者にも親しみを持って見やすいものになっているかと。歴史オタにも一般人にもうれしい工夫じゃないでしょうか。
 二つ目のすごいポイントは展示資料の顔の広さ。六角氏がメインなので歴代当主や被官の文書が多いのも当然ですが、六角氏と関わった勢力も結構面白い資料が集められています。「細川家歴代肖像」などは先年少し話題になっていましたが、まさか実見できるとは。「野寺勧進奉加帳」には斎藤道三の書判もありますし、とにかく有名なところも有名になってほしいところも顔を見せてくる展示資料になっていますね。三好的には、考古博物館所蔵の義賢の三好長慶宛書状が展示されるのは予想していましたが、長慶の禁制や実休の画像粉本まであったのはこんなに三好があっていいの?とまで思ってしまって望外の喜びでした。ここまでやってるのに織田信長の影が薄いというのも独自性を感じますね。
 三つ目のすごいポイントはビジュアル面もしっかりしているというところでしょうか。どうしても近畿の戦国史関連はビジュアル面で地味なきらいがあると言いますか、過去の展示でも文書が多めな印象がありました。私としては文字遣いや花押の形状くらいでも興奮できますが、まあそんな人なかなかいないって。今回は肖像画がそれなりにあったのもそうですが、「山法師強訴図屏風」と「桑実寺縁起絵巻」。絵画資料がスペースを取ってると、展示全体が派手になって無機質さはだいぶ薄れます。
 六角氏、というだけで正直マニアックさは拭えないところではありますが、どのようにすれば馴染みをもって楽しく理解しつつ知ってもらえるのか?という部分が考えられ体現されていたと思います。勉強になりますね。
 一方で、難点としては微妙に研究のアップデートが進んでいない部分があったことでしょうか。三好実休の実名を「義賢」としていたり、「波多野晴通」が登場しているのは、「今は令和やぞ!」と内心思わないでもない古さです。かと思えば、配布チラシの「細川家系図」では細川氏之が登場し、系図上の位置も晴元の弟になっています。な、何でここだけバリバリ最新なんだ?*2こういった点は最新研究によって六角をアピール!といった趣旨を食い合ってる感じで良くないですね。
 六角氏と言えば現地に行って驚いたのは…

 左手に見えるのが安土山(安土城)です。右下にあるのが考古博物館。

 右手に見えるのが繖山、つまり観音寺城があった山ですね。左下には考古博物館が見えます。
 一枚の写真に安土山と繖山が映れば良かったんですが、おわかりでしょうか?二つの山は本当に隣でした。
 いや…知識として安土城観音寺城がお隣なのはわかっていたつもりだったんですが、本当にすぐ隣じゃないですか。これで安土城が六角氏を全く意識していないなんてことがあるのか…?安土城と言うとビジュアルは安土城だけがイメージされますけど、安土城が出来た頃にはすぐ隣に観音寺城が廃城10年経たずに残っていたわけで、当時は二つの城が並び立っていてそれがどう見えたのかは安土城にも関わる重要なテーマなのではと思ってしまいます。安土城の防衛線が弱いのは観音寺城を詰めの城として使うことを想定しているからだという説を聞いたこともありますが、こうもお隣さんだとそういう目論見がなかったとも思えませんね。この立地はもっと検討されるべきなのでは…?何なら安土城考古博物館も「観音寺城考古博物館」でもいいくらいの麓にありますし。
 そう考えていくと、六角氏で企画展示をやるというのはまだまだ始まりなんですよね。付近には安土城や桑実寺…そこまで行かなくても「信長の館」で安土城天主の5階・6階の再現が見られて見応え抜群ですし、展示内容も充実しているので多くの歴史ファンには六角の匂いを感じ取ってほしいですね。

*1:六角定頼のデフォルメキャラって初めてじゃなかろうか

*2:おそらく『三好一族』から系図をコピペしてきたように見受けられるが、『三好一族』読んでるなら実休の実名間違えるか?