志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

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【ネタバレ有】『劇映画 孤独のグルメ』感想

 孤独のグルメ(原作:久住昌之 作画:谷口ジロー)は、輸入雑貨商・井之頭五郎を主人公に、五郎がただ市井のメシを独白しつつ食べるだけという、至極単純な漫画だ。ただ、五郎のどこまでも我が道を行きつつ、料理や店の雰囲気にあれこれ内心で文句をつけたり、称えたりする態度が独特の味を醸し出していて、何とも忘れられない雰囲気がある。
 翻って実写版は五郎を松重豊が演じているが、当時は谷口ジローの描く五郎とは外見が全然似ていないなと思ったのを覚えている。実際に私がリアルタイムで実写版を見出したのはSeason3からだが、漫画とは趣が異なりつつも、料理の魅力を余すところなく伝える演技と独白に魅了…と言うと言いすぎな気もする塩梅の、こういう風に物を食べてみたいという感慨を受け取り、以降基本的に観続けることになってしまった。
 そんな『孤独のグルメ』が「劇映画」として映画化というのだから驚きだった。実際、私も『孤独のグルメ』を見つつご飯を食べたりもあるわけで、1時間50分も拘束される中でどうダレずに食欲を抑えて『孤独のグルメ』が成り立つと言うのだろうか。そういうわけであまり期待はしていなかったのだが、『孤独のグルメ』を映画館で見ること自体が貴重な映画体験なのも間違いなく、さっさと鑑賞してきたのだった。
 不安とは裏腹に、ちゃんと一映画として成り立っていて驚いた。それだけではなく、テンポも良く見やすい。話が飛ぶが、初代ウルトラマンが今でも秀逸なのはテンポの良さにあると思っている。よく見るとおかしかったり、今や特撮技術や演出が追い付いていない面も多々あるのだが、何よりも小気味良く見られるので、映像の古さや稚拙さに不快感が伴わない。それと同じような感覚をまさか令和7年現在に『孤独のグルメ』で体感できるとは思わなかった。

 具体的に言うと、場面転換の割り切りや細々した点はあえてばっさり切り捨てるという点がある。パリで依頼を受けた後の五島列島、韓国でサバを食べた後の東京といった場面転換は一瞬だし、五島列島で懸案だった魚の調達もいつの間にか達成できている。前者は特に飯が絡まない移動としてカットしていいものだし、後者も輸入雑貨商としての優秀さとしてしれっと回収されるべきもので、気付けば気付くし、気付かなくても何ら問題はない。そういう割り切り方が確かにある。また、TVシリーズとは違い、食事シーンもやや端折り気味で、視聴者の「食欲を我慢できない!」を寸止めするようなものが多い(それでも結構やってるとは思うが)。それだけにラストの「腹、減ったでしょ?」はずるい。腹、減ったに決まってるだろうが!
 その一方で、人情を演出する「間」というものもある。ここは一つ間違えるとただ間延びするだけなのだが、何も言わない場面でも「何を言わんとしているか」想像するくらいの時間だけを切り取っているのが絶妙である。これはTVシリーズの『孤独のグルメ』の文法の延長上でもある「らしさ」を感じられてすごく良かった。なので、1時間50分もあるのに無駄なシーンはほぼなく長いとは全く感じない。
 本作の監督も松重豊なのだが、監督をするのは初めてである。その割に新人監督らしい鼻のつくような、いい意味でも悪い意味でもこういう時は「俺が俺が」という感じが出がちなものだが、そういった面はほぼなかった。恐らく松重監督自身が「何がどう受けるか」ということに造詣が深いのと、本作が松重監督の処女作であると同時に若いスタッフへ教えたいという狙いとがこういった見易さに結実しているのだろう。
 話の内容は一言で言えば「スープ探しの旅」。途中ハプニングもあったが、結実したスープは「美味すぎる」。これが本作の真骨頂だろう。旅先での出会いや食事に無駄がなく、色々な思いを受け取った末にできた「スープ」はこの映画そのもので、確かに「美味すぎる」。出会った人たちの生態も良い。皆ほどほどに「孤独」ながらそれぞれの生を生きている。オダギリジョーのラーメン屋が上手くいかなくなったのもコロナ禍やウクライナ戦争などに端を発するインフレが影響している。そんな世相で『孤独のグルメ』が寄り添えるものとは何かが端的に表現される。これが本当にアンチが撮った映画か?
 生態面に関して言うとやはりオダギリジョーが演じる店主。やさぐれているクセの強いラーメン屋の店主が、ふと具材に目を留めてスープ作りに協力してくれる展開。この気位が高そうに見えてそうでもない独特さ。一昔前なら藤岡弘、あたりが演じてそうなオッサンを今はオダギリジョーが演じるというのはキャラ造形の変遷と世代交代を感じてしまうね。それはともかく、そこから「孤高のグルメ」の撮影を受け入れてわりと気分良くなってたり、五郎の持ってきたどんぶりのマークを見て何かを悟っているかのような表情といい、当て書きレベルでオダギリジョーだよこれは。内田有紀とのカップルもお互いゴールインまで行けても関係が破綻したら修復できなさそうなアクの強さがあってベストキャスティングだ。
 ラーメン屋再建の鍵を握る中川も、なぜあのラーメン屋に拘っていたのか、なぜ五郎と会った時に料理の写真を撮っていたのかが、ただラーメンオタク・何でも写真撮る現代人というわけではなく、実は「孤高のグルメ」スタッフだったというところに回収されていくのが上手い。作劇の妙でしょう。ユ・ジェミョン演じる入管の人も『孤独のグルメ』本当に初めてかと言うほど、間の取り方や言葉を挟むタイミングが上手い。この映画で恐らく一番感情移入できる人間が韓国人というのも面白い。
 昨年は『それぞれの孤独のグルメ』もあったが、それを経て思うにやはり孤独のグルメ』の魅力はあえて「孤独」というところにあると思う。飯を食う時だけは自分だけの世界が展開し、誰にも邪魔をさせない、至福な時間と空間…。『それぞれの』では五郎以外の役者さんたちの「孤独のグルメ」が描かれ、当たり外れがあったが、ちゃんと「孤独」である人物造形があればあるほど成功しているように見えた。劇映画でも「孤独」ぶりは健在で、漂着した島の人たちに見守れながら、横に入管のオッサンがいながら、否、だからこそ「孤独」は際立って見えた。出来上がったラーメンを4人で連れ立って食べる場面も独白も会話もなく、4人がただ黙々と食べて食べ終わる。様々な人生と経緯を背負った4人がただ何も言わず飯を食う。これこそが孤独のグルメ」の醍醐味だと改めて感じた。
 そういうわけでいい感じにちゃんと腹が減る映画だった。今後このシリーズがどうなるかは知らないが、今回映画が作られたことは間違いなく『孤独のグルメ』にとって良かったと思えた。ところでオニオンスープとラーメンはクリアしたけどヘジャンクってどこで食べられるんだ?