志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

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【ネタバレ有】『ウルトラマンデッカー最終章 旅立ちの彼方へ…』感想

※この記事中には映画の内容に関するネタバレを大いに含みます。初視聴の驚きや感動を体感したい方にはおススメしません。

 令和5年(2023)2月25日に『ウルトラマンデッカー最終章 旅立ちの彼方へ…』を観てきました。昨年の『エピソードZ』に引き続きTSUBURAYA IMAGINATION配信と上映が同時というスタイル。実は前日まで夜行バスで遠方まで行って帰ってしていたので、映画館で観た時は結構ウトウトしているところもあったという状況だったんですが、帰宅しても「ここはどうだったかな」をスマホですぐ確認できるということで、新しい時代を実感することになるという。いや、ちゃんと大スクリーンに集中できていないのがいいことかはわかりませんが…。
 今回の『旅立ちの彼方へ…』もどういう作品なのか、心構えはあまりないままでした。『エピソードZ』は脚本・監督もTVシリーズのメインではなかったですし、「映画」という装いはそこまでなく、TVシリーズから見ると外伝という立ち位置ははっきりしていました。それが今回は「最終章」という看板が設けられ、『エピソードZ』と異なり、この作品が作られることはTVシリーズから織り込まれていたと思われます。
 一方で今回は予告でチラッとダイナこそ映っていたものの、客演ウルトラマンのアナウンスもなく、敵であるギベルスやギガロガイザも『ダイナ』などの過去のシリーズに所縁を持つ怪獣・宇宙人ではありません。映画館まで足を運ばせるための打てば響くような要素が足りてないのではと心配するほど地味な装いです。一応ウルトラマンディナスという新ウルトラマンもいますが、彼(彼女?)が何者で、なぜデッカーと似ているのかも事前公開はありませんでした(そりゃネタバレになることでしょうから当然ですが)。配信でもあるから訴求力はそこまでいらないのかな?
 果たして内容は実際どうだったのかと言うと…『デッカー』らしい生真面目さがそのまま出ている「いい作品」でした。何より「最終章」なのに「旅立ち」とはどういうことなのか。思えば総合感想でも手短に述べましたが、『デッカー』TVシリーズは『ダイナ』と『トリガー』要素をどう処理していくかにも注力していたわけです。それが今回は(『ダイナ』についてはかなり核心的な部分に絡んではいますが)極めて薄い。初めて『デッカー』が『デッカー』だけで作品を作れている。ただ『デッカー』は『ダイナ』と『トリガー』なしでは成り立たない作品でもあるのでこの2作品の頚城から逃れるのは「最終章」であり「旅立ち」になる。ここは唸った部分でしたねえ。

 以下、要素について述べていきます。

 本作の肝となる新ウルトラマン。個人的に技巧を感じたのは、女性が変身するにも関わらずウルトラウーマンではなく「ウルトラマン」であることに積極的に意味を持たせてきたこと。近年はグリージョやソラやカルミラなど、ウルトラマンでも女戦士が増えていますが、単なる女戦士じゃなく「ウルトラマン」であるのは趣向を感じる部分でうれしいですね。ディナスがダイナ・デッカーに通じる系譜でもあると明かされたことで、なぜダイナと酷似しているのか、なぜカードが基幹アイテムなのかも解き明かされることになったのも大きいです。
 一方で登場時間が長い割に、ディナスさんが戦闘向きではないこともあってだいたいが苦戦パートになってしまうのは惜しいところ。変身能力が失われたかどうかはぼやかしているので、今後デッカーが戦いつつディナスがサポートや、ギャラファイシリーズで他の女ウルトラマンと共闘するなど、今後活躍の幅を広げてほしいウルトラマンですね。
 ディナスを演じたのは中村加弥乃氏。ディナスのある種の図太さと細さを見事に演じられていてナイスキャスティングでした。

  • 宇宙人たち

 ニュージェネと言えば、バラエティ豊かな宇宙人の生態。顔だけ宇宙人な簡易宇宙人がモブとして存在する世界観はニュージェネによって完全定着したと言えます。しかし今回はここも真面目です。芸人さんらが声を演じているにも関わらず、ギャグ的な処理はほとんどなく、宇宙人が徒党を組んで制圧してきたら本当に基地が制圧されてしまうという。イカルス星人も『劇場スペシャル』や『X』の時同様関智一声でしたが、ネタ的な部分は全くなく真っ当に「怪しい隣人」していました。
 ギベルスの目的も最終回で地球人がスフィアを退けたのを見てその精神力に注目するという、こういう「以前の事件を受けて」「軍事面ではなく精神面に注目する」目的は珍しくて良かったですね。この作品だと「最終回を受けて最終章っぽくしないといけない」し「それなりの格」は必要だが、無茶苦茶強かったりしてもブレるというところがあるので、強さバランスとしても悪くなかったかと。
 また、味方としてグレースさんやナイゲルさんが出てきたのもTVシリーズでの人間関係の決算であると同時に、宇宙人たちから基地を奪還することに説得力を与えていて…本当に理屈を通していきますよね。TVシリーズ最終回で彼らが出られなかったのは純粋に残念でもあったので、というかここでやるからTV最終回では出なかったんでしょうが…フォローがあったのもうれしかったです。

  • ギガロガイザ

 本作のメイン怪獣。正直能力や外見はありがちで、あんまり特徴を感じさせるほどの強さはなかったのですが、ここでサプライズ要素。要塞ゾルガウスと合体してゾルギガロガイザにパワーアップします。これは生身の肉体に機械が融合するというウルトラ怪獣ではあまり見て来なかったスタイルで目を引きます。ただ、これを以てしてもなお歴代映画怪獣の中では地味さは拭えないやも…。ソフビはゾルギガロガイザしか出てませんが、ちょうど首から上で分割してるのでいつでもギガロガイザも出せる親切設計。ギミックの面白さを十二分に生かしている感じはなかったので今後の再登場で新しい側面が出てくることを期待したい。

  • GUTSセレクトの面々

 全員が新しい「旅立ち」を迎えるというこれまた爽やかな「最終章」。いざ指揮を取れと言われると怖気が出るリュウモン周りもただ発破をかけるのではなくて、同情と共感によってやる気を出していくのが現代的でしたが、だからこそ万人への前へ進むことが出来るというメッセージになっているように感じられました。ただ、最終決戦での活躍は一度やられて全員生身で出てきたのに、もう1回ナースデッセイ号やテラフェイザーで戦おう!という転機で、まだ戦えたのに何で一度捨ててきたの?という感が拭えなかったかも…。最後に、新生GUTSセレクトは一人くらい女性隊員を入れた方がいいぞ!

 直接の登場はなかったが、それでもかなり美味しいポジション。宇宙での旅を続けていることや、自分のウルトラマンの能力を分与できるという新能力まで明かされました。今後も全く別なところでデッカーのカラーバリエーションのウルトラマンが登場してもおかしくないと考えると、重要な追加設定でしょう。…ネオフロンティアスペースでも超古代のウルトラマンたちはダイナっぽい外見だったので、ひょっとしてダイナってモブの「型」か何かなんでしょうかね?

 今回仮にも映画・外伝とは思えない渋さを代表するのがデッカー。何がと言うと、本当に最終決戦にしか出て来ず、タイプチェンジもしません。これまでの映画限定タイプと同じ位置に素のデッカーがいるという。まあ強さバランスやテーマとしては特段おかしくないんですけど、やっぱりデッカーの作品なのに、タイプチェンジもデュアルソードもダイナミックタイプもないのは、本当に渋い。あと、最後ギベルスに「俺はアスミ・カナタ!ウルトラマンデッカーだ!」はディナス→ウルトラマンディナス、デッカー・アスミ→ウルトラマンデッカーを思うなら、ウルトラマンカナタになるのではとか、カナタ自身の姿ならダイナミックタイプを出すべきだったのではないかとか、『デッカー』に珍しく落ち着かない部分だったかもしれません。

まとめにかえて

 総合感想記事でも思ったけど…『デッカー』って感想書きにくい…書きにくくない?元々が真面目に作られているので、意外と取っ掛かりがない。モンスアーガー回感想みたくキャラクターに軸があれば、そこから攻めるのもアリなんですけど、そうじゃないと感想自体が「こうなっているな!」だけで終わってしまいがちなんですよね。だからこそ面白い話であっても新しい可能性を広げている側面をなかなか断言できないのが真面目ゆえの惜しさに思えます。
 ただスタッフの志向もあるでしょうが、『エピソードZ』→本作と来て、この時期の上映&配信作品がTVシリーズのストーリー的な補完・外伝として位置付けられ、洗練されてきたことは窺えるでしょう。単純な共演ものはTVシリーズ内やこれを逃しても近年はギャラファイがシリーズとして確立していっているので、こうした性格付けが確立していくことは、視聴サイドからは色々なものが見られるので歓迎したいことです。ただ、この流れが確立するのか、転換するのかも次のウルトラマンにかかっているわけで、そういう意味では『デッカー』は「偉大なる繋ぎ」であり、その意味でも「NEW GENERATION DYNA」なのかもしれません(綺麗にまとめたつもり)。