志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

怪獣monsterのコンテンツを中心に興味の赴くままに色々と綴っていくブログです。

【ネタバレ有】『ウルトラマントリガー エピソードZ』感想

※この記事中には映画の内容に関するネタバレを大いに含みます。初視聴の驚きや感動を体感したい方にはおススメしません。

 令和4年(2022)3月21日『ウルトラマントリガー エピソードZ』を観てきました。本当は19日にドラえもんと2部立てで観るつもりだったんですけど、当日10時半に映画館に行ってみたらまさかの完売!今回上映劇場が少ない上にハコも小さいので、近隣都市圏丸ごと来てしまうとすぐに席が埋まってしまうんですね…。これは想定するべき事態でした…。ドラえもんは2週間遅れくらいでわざわざエピソードZに合わせたんですけど、このスケジュールじゃなかったら映画館まで出向いたのに全くの収穫ナシということになっていましたな。もちろん『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』も面白かったのでおススメです。
 今述べたようにわざわざ映画館まで観に行ってきたわけです。今回はTSUBURAYA IMAGINATIONの配信作品でもあるので、入会すれば18日の日付が変わった瞬間から観られたんですが、やっぱり大画面で観られるなら大画面で観たいよねえという欲求は抑えられませんでした。
 振り返れば、新型コロナウィルスCOVID-19の感染拡大によって、映画という産業自体が打撃を受けました。これはウルトラマンでも『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』の公開延期で辛酸を舐めましたね。正直それもあって劇場公開というもののハードルは上がっているように感じていました。『ウルトラマンZ』は『シン・ウルトラマン』との兼ね合いで当初から劇場版は製作されなかったようですが、『トリガー』も『シン・ウルトラマン』抜きに考えても劇場版を製作し、そこに集客するのは厳しいだろうなあと。また、ここ10年程のウルトラマンは『ギンガ』以来劇場スペシャルという試みから徐々に「映画」の格に戻してきましたが、『劇場版タイガ』では一つの天井が見えたといいますか、豪華さが頭打ちになったという印象もありました。今後もウルトラマンの映画は作られていくのか、作られるべきなのか、作ったとして未来を見せてくれるのか…そういった点には疑惑も持っていました。
 それゆえに今回の『エピソードZ』には企画に驚くと同時に唸りました。配信作品を劇場公開もするという形式!厳密には「映画」とも違いますが、劇場スペシャル的でありながら劇場に拘らない新しいスペシャルな新作の形が示されました。この形なら「映画」ではなくとも「映画的なもの」を今後も続けていけるかもしれない。それでいて無理にかつてのような「映画」を目指さなくてもいい。言うのもなんですが、『劇場版タイガ』もこのような形式なら結構満足してたかもしれません。
 とは言え、期待がないということではありません。『トリガー』のスペシャルな作品、あるいは「真の最終回」として何がやれるのか。具体的な点としては、ケンゴがどうやって復帰するのかやイーヴィルトリガーの正体などもありますね。今回はウルトラマンZ・夏川ハルキも出ますが、彼はTVシリーズでも出ているのでそこは新鮮味がなく期待感はあまり伴ってませんでした。特撮的にも見所はそこまで作る必要のない作品だろうなというのが前提なので、ここらへんはかつての「劇場版」よりハードル低めでした。
 そういうわけでここからは大雑把にストーリーを追いつつ(記憶があやふやで間違いもあるかもしれません)、あれやこれや述べていきたいと思います。

 最初に「松竹」が出ないのが配信作品を上映しているという体であることをしみじみ感じつつ、パゴスとGUTSセレクトの戦いが描かれます。ここは特撮も水使っててTVシリーズと同等の見応えですし、ウルトラマンもいない、防衛チームオンリー戦闘なので緊張感もあります。振り返ればニュージェネでこういう防衛チームだけの怪獣との戦いというシチュエーションはあまりなかったので、うれしいですね。これまでの「劇場版」ではオープニングバトルは基本ウルトラマンが出ていたのでその点でも狙いの違いを感じます。そうそう、加えておくと私としてはパゴスが原ウルトラ怪獣体験なところがあるので、彼が大画面で怪獣やってるのも感無量でしたねえ。もっとも、大画面だと着ぐるみの肉が余ってるのもすごく目につきましたが…。こんだけアピールしたんだからバンダイも観念してパゴスのソフビを作ってほしいところです。
 ピンチにトキオカ隊長代理が登場しわかりやすい紹介パートが始まります。一通り事件の説明が済み、ケンゴを復活させる作戦が始まることになります。ここはTVシリーズの方でも記憶違いがあるかもしれないですが「ケンゴって半永久的にエタニティ・コアと一体化してなくてもいいのか」とか「ライラーの素性も知れないのに彼らの言い分聞いて作戦立てて良いのか」あたりは気になりましたが…。ここでもGUTSセレクトの力を結集した作戦が成功し、ケンゴが帰ってきます。人工衛星の使用などはあっさりしているからこそ世界観の深みを感じましたね。
 お帰りなさいパーティの中再びパゴスが登場しますが、ケンゴは復活の際に変身のためのハイパーキーをなくしており変身できないこと、ウルトラマンになれない光の化身で人間でもある自分とは何なのかに悩むことになります。もっともここで次元を超えてゼットさんが現れ、パゴスを倒してくれます。ゼットはハルキの姿になり逃亡したセレブロを追ってやってきたと語ります。ゼットライザーは修理されたようですがスパークレンスについてノータッチだったのはちょっと残念でした。
 ハルキを交えてハイパーキー探しに向かったケンゴたちですが、出奔したライラーたちが襲ってきます。ここのアクションも結構しっかりしていた印象があります。そこへキーを飲み込んでいたガゾートが襲ってきます。マルチタイプのキーを得たケンゴはトリガーに変身、スカイタイプのキーは取り戻していないのでガッツファルコンと協働してガゾートの動きを止めキーを吐き出させ、スカイタイプにチェンジ、ガゾートを撃破します。一方のパワータイプのキーはおばけ屋敷にあり、アキトとユナが探しに行くコメディパートも展開されます。ここ人の情動が集まる場所にキーが行くみたいにマルゥルが言っていましたが、ガゾートの腹に情動があったのは何でやろなあ…。ガゾートは元はアトラク用スーツで出来は良くないのを、TVシリーズの3話では画面を暗くして雰囲気を出していたのが、今回は着ぐるみの表面が生っぽくなっていてそこまで苦しくなかった気がします。若干改修したんでしょうかね。
 ライラーたちにセレブロが紛れ込んでおり、ハルキは体を乗っ取られつつもゼットに変身して、新たに現れたゲネガーグおよびデスドラゴにトリガーとともに立ち向かいます。現れた怪獣がZとトリガー双方の始まりの怪獣なチョイスが面白いですね。ガンマフューチャーは見せ場がなくて残念でしたが、2対2のタッグがプロレス的に面白く演出されて楽しいバトルでした。TVシリーズでは能力連携だったのがいい意味で差別化していたと思います。しかし、ゲネガーグとデスドラゴを倒すのも束の間、ゼットはセレブロに体を乗っ取られてしまい、トリガーと戦い始めます。ここでトキオカ隊長代理がトリガーを援護しようとしますが、ゼットはそれを一蹴、トキオカ隊長代理は爆発の中に消えます。わかりやすい生存&黒幕フラグだなオイ!
 敗北したトリガーにハルキinセレブロとライラーたちが迫り、スパークレンスやキーを奪うところに間一髪イグニスが駆け付けます。イグニス!そういえばいたねえ。今回はオープニング映像もないので、存在をすっかり忘れてました。そのおかげで結構緊張感があって良かったかもしれないですね。
 逃走したライラーたちはエタニティコアの前で新たに儀式を始めたため、ケンゴたちが駆け付けます。ライラーのボスが顔を明かすとそれは何とトキオカ隊長代理!死亡偽装期間短ッ!ここまでは読めていたのですが、ここからは驚きの真相が始まります。トキオカ隊長代理は超古代人の科学者ザビルその人であり、ユザレの友人でした。かつて闇の巨人相手には自分たちは何もできずトリガーが光に転じることで闇の巨人は封印され、ユザレは失われました。その一連を見ていたザビルは自身が光になることを望むようになり、闇の巨人がいずれ復活しトリガーがそれに立ち向かって闇の巨人を倒した後、トリガーから光を奪うことを企んでいたのです。無茶苦茶気の長い計画だな!実際アブソリューティアンやキリエル人が介入した時は内心ちょっと焦ってそう。
 ザビルがここまで後付設定を背負いつつ、TVシリーズのフォローになってるのには本当に驚きました。特に破綻もなく光を奪う理由付けになっているのも、最初ケンゴに会った時にこれまでの戦いの礼を言うのも自然ですしね。TVシリーズではユザレ以外の超古代人が出て来ない寂しさがあったのですが、同族や友人もちゃんといたことになり、画面に映らなかったこと自体がここへ来て意味を持っていることになります。ザビルはイーヴィルトリガーに変身し、ウルトラマンを名乗りつつ、ゼットとともにトリガーダークやGUTSセレクトを蹴散らします。ここのイーヴィルトリガーの暴れっぷり!特にナースデッセイ号の尻尾を掴んで振り回す場面は合成がすごく自然に作られていて、今回のキラーカットと言っていいかと。

 儀式の場面は周辺にバリアが張られていますが、ケンゴとアキトが2人で突入することでスパークレンスとキーを取り戻し、ケンゴはトリガーに変身して戦い始めます。ナースデッセイ号やファルコンが墜落して使えない中、テッシン・ヒマリ・マルゥルたちは途方に暮れますが、そこへタツミ隊長が現れ「負けたと思うまで人間は負けない」…はメタルダーの主題歌だ。それに近いことを言って隊員たちを奮起させ地上戦に移ります(実際にはTDの「俺達にはまだこれがあるだろう!」を思い出したね)。イーヴィルトリガーに苦戦するトリガーですが、GUTSセレクトたちが倒れるトリガーの間に入って援護、トリガー・ケンゴは光が人の形を取ったのは協力しあうためだ!とイーヴィルトリガーに主張します。ここは演出も決まっていましたし、トリガーならではのティガへのアンサーにもなっていて満足度が高い場面でもありました。
 さて、ゼットはトリガーの励ましもあってセレブロを追い出し、セレブロはメダルを使ってデストルドスになりますが、ゼットとトリガーダークにデストルドスは倒されます。徐々に劣勢となったイーヴィルトリガーはさらなる超巨大化を遂げますが、3人のウルトラマンの活躍により倒されてしまいます。超巨大化は敗北フラグ。しかし、事前情報はなかったので驚きましたし、周囲を飛ぶ3人のウルトラマンとの戦いも破綻なく描写されており、最終決戦感としては申し分なかったかと。
 最後は全員揃って大団円なところ、ザビルが現れ、笑顔を交わすGUTSセレクトらを眺めてかつての仲間との交流をフラッシュバックさせながら消えていきます。中村優一氏といえば仮面ライダーで有名な俳優ですが、今回は「頼れる隊長代理」「狂気の科学者」「超古代人」という顔をそれぞれ演じていて見所たっぷりでした。彼がトキオカ/ザビルを演じていて良かったです。後はスーパー戦隊に出演するだけですね。

まとめ

 すごく…ちゃんとした作品でした。特撮的にはこれまでの「劇場版」よりはハードルを下げて臨んでいたというのはありますが、ハードルを驚きを持って超えていくものが出されたので豪華さはなくとも満足しています。それよりもストーリー要素がすごくハマっていて、最たるものがイーヴィルトリガー。原典のイーヴィルティガはティガとは別の巨人が利用されて「影」なるイーヴィルティガになっていたのが、今回のトリガーはまさに「イーヴィル」なトリガーとして出現しています。そうした違いにも関わらず、主役である光の巨人に問いかけるものが対照的でトリガーならではの答えが提示されるので、ようやく『トリガー』の「NEW GENERATION TIGA」が正統に昇華されたと感慨深いですね。
 GUTSセレクトの面々ももはや「うざい」が対ケンゴ愛情表現にしかなってないアキトや巫女としての使命を果たすユナはもちろん、他の面々も見せ場があります。特にヒマリさんはちょっとした場面でも血の通いようが格段に上昇し、キャラクターとしてここで真に独り立ちした感じです。よく見たらすごくスタイルいいし、この魅力をTVシリーズでも中盤くらいに出せていたらなあ。逃げる市民も今回ちゃんといますし、世界観の広がりもあって、『トリガー』の痒い所に急に手が届きまくっております。これは『トリガー』へのイメージ改善としてすごく大きい!エピソードZ、作って良かったですね。
 「エピソードZ」というのも示唆的なタイトルで、ゼットとのコラボがありつつも(TVでちゃんとした共演やったせいか今回のゼット・ハルキは舞台装置的というか賑やかしの域ではありました)「真の最終回」であり「エピソード・ザビル」の含意もありますよね。
 この作品を作った武居正能監督についても述べておきましょう。個人的に武居監督には特撮の中ではあまりいいイメージがありませんでした。坂本・田口監督のように強力な一点突破武器を持っているわけでもなく、アベ・辻本監督のように自己流が確立しているわけでもなく、他の監督を参考にしつつも自分の強烈さに乏しいと言いますか。それが『トリガー』ではこんな演出できたんだ!と思うことしきりで、その延長上に今回もあります。『R/B』の時は経験を積んでいく面がまだまだあったかと思いますが、『タイガ』~『トリガー』を経て洗練された今、そして今後は期待していきたい。そんな監督になりました。
 以前『劇場版タイガ』である種の区切りがつくのではないかと述べましたが、『エピソードZ』は実際色々な意味で新たな始まりになっている作品かと思います。もちろん「映画」のような大きな企画ではないので、映画用の新形態もなければ新しい着ぐるみもイーヴィルトリガーのみ(これも厳密にはアトラク用トリガーの色変え)というしょっぱさは拭えないものの、この流れが何を新しく見せてくれるのか、期待が高まったことだけは確かです。

PS もはやどうでもいいですが、ウルトラマンの3分時間制限ってもうほとんど機能してないよね。