志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

怪獣monsterのコンテンツを中心に興味の赴くままに色々と綴っていくブログです。

「ウルティメイトフォースゼロ~Side Story~」感想(2)

 TSUBURAYA GALAXY内連載小説「ウルティメイトフォースゼロ~Side Story~」の感想を(1)に続いて語ります(前回の内容と心構えについては以下リンクから)。

monsterspace.hateblo.jp

スペシャルステージ ウルトラマンゼロ10周年 ANNIVERSARY THE LIVE

m-78.jp

 ウルトラマンゼロ10周年ANNIVERSARY THE LIVE」にて行われたスペシャルステージ。「ウルティメイトフォースゼロ~Side Story~」の前日潭でもあるということで、ここでついでに感想を開陳します。
 全体的にまさにショー向きといった趣きで、内面描写に迫るというより、ワイワイやる感じです。イベントでの関智一氏曰く、彼らは「本物」*1、ゼロ、グレン、ミラーの声も本人なので、現地にいたら限りなく本物な波動が感じられたことだと思います。そのくせ結構勝手に動いてるところもあるので、上演が1回だけ、ライブ配信も全体を見通せるわけではないというのはやや殺生なところもあります。見られないところで絶対何かやってるよね奴ら…なポイントがありそうなんですよね。
 粗筋を一通り喋ると、グレンファイヤーが落ち込むゼロを元気づけようと、ウルティメイトフォースゼロの合体技を提案するもので、その中でバタバタやってる中、ビートスターの残党(!)が現れて戦いになり、何だかんだで合体技が完成する展開になります。最初にプロローグ的に『ゼロファイト』2部再現が展開されるんですが、ゼロダークネスがウルティメイトフォースゼロを全滅させるところからやるからえぐいですね(笑)。いや(笑)じゃないが。
 基本的には口数の多いグレンファイヤーが引っ張ってお話が展開します。やっぱ関智の声がつくとイキイキしだしますね、奴は。主役のはずのゼロより喋ってたんじゃないか?ミラーナイトやジャンボットもゼロ・グレンには劣りますが、自然に会話しており、キャラクターを上手く出していたと思います。これに対してジャンナインはほぼほぼ喋りませんでした。ライブラリ音声は使っているので、本物指向ということであまり喋られなかったのだと思われますが、わざわざジャンボットがナインの言葉を代弁したりもするのは違和感が大きく、何とか出来なかったかなあといったところです。ちなみにジャンボットもたぶん神谷浩史氏ではなく、ウルフェス等でジャンボットの声を演じている方の代役っぽい感じでしたが、神谷声と聞き紛うくらい声を再現できていたのは、うれしい驚きでした。
 完成した合体技は「ファイナルウルティメイトフォースゼロ」!ファイナルウルティメイトゼロをウルティメイトフォースゼロの5人で放つ技です(小説の第6話によると、クリスタルがそれぞれのパーソナルカラーに輝くのが見てくれの違いらしいですが、ショーではたぶんそこまで再現はされてなかった…と思います(記憶が曖昧))。個人的にはウルティメイトフォースゼロに合体技を作るとしても、こういう形は避けて欲しかったと思ってたんですよね。ファイナルウルティメイトゼロにはダイナやコスモスもエネルギーチャージに加わることで放つファイナルウルティメイトゼロ・トリニティというバージョンもあり、これがあることで差別化が可能になった側面があると思っていたので。ファイナルウルティメイトゼロはチャージに時間がかかるのが一応のデメリットなんですけど、非ウルトラマンのウルティメイトフォースの面々だからこそ能力を生かした時間稼ぎが出来る一方、ウルトラマンだとパワーソースが同じなのでエネルギーチャージに加わることでチャージ時間が短縮できる、みたいな…。5人で撃つ、だとトリニティの二番煎じ的になっちゃわないか、ファイナルウルティメイトゼロを5人で撃つ、は誰しも思いつくけど、合体技ならもうちょい一捻りできないか…。直接関係ないですけど、『ウルトラゼロファイト』前に『テレビマガジン』でウルティメイトフォースゼロとボガールが戦う雑誌内展開の中でミラーナイトが最後ボガールの爆発を鏡で防ぐというのがあり、いつかこれ映像でもやってほしいくらい、いいアイデアだったな…。
 閑話休題。そういうわけでファイナルウルティメイトゼロを5人で撃つのが合体技になるのでは的危惧があったんですが…だからこそイージスでゼロが他のメンバーを庇う→「「「「俺・私たちもゼロを支える!!!」」」」→「「「「「ファイナルウルティメイトフォースゼロ!!!!!」」」」」の流れは…痺れましたね。『ゼロファイト』2部ラストのゼロの力でウルティメイトフォースゼロが復活→ゼロは力尽きて倒れ掛かる→他の4人が総出で身体を支えるの延長ですし、『ウルトラマン列伝』最終回のグレンファイヤーの「わかってんだろゼロ、俺達皆お前を信じてるてことを!俺達もわかってんだ、お前も俺達を信じてるってな!」が台詞だけだったのをもっとダイレクトにやったという形ですよね(後者はちょっとその後の立ち直りがあっさりだったので、小説第1話も含めて今回がすごくいいフォローになってると思います)。ウルティメイトフォースゼロこそがゼロに寄り添い支えることが出来る、その結実に5人撃ちを持って来られたらもう何も言えないですな。よくぞやってくれた!
 文庫本では第0話「合体技を作ろう!」として収録(まんまなタイトルだ)。池田氏のプロット→実際のショー→池田氏のノベライズという経緯だそうで、ショーに醍醐味を文章でもきっちり抑えています。ジャンナインの台詞もジャンボットの台詞を置き換える形で自然なものになっており、真っ当な5人感を出すことに成功しています。ノベライズならではですね。

第4話 ジャンボット編「エスメラルダ王家の秘密」 vol.21掲載

ウルトラヒーローシリーズ 39 ジャンボット

ウルトラヒーローシリーズ 39 ジャンボット

  • 発売日: 2017/04/08
  • メディア: おもちゃ&ホビー

 第4話はジャンボット!ジャンボットピンではなくエメラナ姫も登場します。ここまでゼロ、ミラー、グレンの話はアナザースペースの中で新しくアナザースペースらしい不思議な人物に出会う、といったものでしたが、今回はタイトルにもあるようにエスメラルダ王家で広げていく展開となります。
 ジャンボットは本来「硬い」キャラとして構想されていると思います。ロボットということもあり、命令には忠実ではあるけれど、融通も利かないというような。ただ、それだけではないのがジャンボットの妙味。『キラーザビートスター』でジャンボットは「私の優秀な人工頭脳」とナチュラルに自惚れているような台詞を言いますが、本人が大真面目に言うことで逆にツッコミどころがある。神谷浩史氏の声はジャンボットの「硬さ」に最大限寄り添いつつも、それが一周回って親しみを生むような深みをジャンボットに与えています。
 ジャンボットのベースはそういったところですが、そのキャラクターは『ゼロTHE MOVIE』で有意に成長したものでもあります。ジャンボットはエメラナ姫を連れてベリアル銀河帝国から逃亡、惑星アヌーの地底洞窟や小惑星帯に潜伏していました。ジャンボットに限りませんが、アナザースペースの人物たちはベリアルの侵略・圧政を止めることは出来ないと考えていたわけです。そこへゼロがやって来て、ナオはバラージの盾の伝説を語ります。バラージの盾を探しに行こうとするゼロたちに最初に反駁したのがジャン、エメラナ姫の命令含みではありますが結局それに応じたのもジャンでした。行動面で言うとジャンの決断でベリアルを倒す旅が始まり、ジャンも戦ったわけです。そして、その延長上にウルティメイトフォースゼロへの参加も、ジャンキラー(ナイン)を助けるという事象もあります。
 その一方、どの事象にもエメラナ姫が介在しており、エメラナ姫が主、ジャンボットが従の関係でもありました。今回はこの主従関係も大きなテーマとなります。過労で倒れたエメラナ姫をジャンボットが励ますのですが、一つの重大な掟破りが行われます。これはジャンボットが自分の意志で行ったもので、明確にジャンボットの側が主となって一歩を踏み出す、行動の主従関係が逆転するんですよね。こうやって見ると今回に至る流れというのはとても自然かつジャンボット編としてこの上なく成り立っていると言えます。
 最後に言っておくと、掟破りと言っても道を踏み外すということではないのでご安心を。ジャンボットがエメラナ姫を連れて行った「秘密」はとても心暖かなものでした。何がなのかはお楽しみ。

第5話 ジャンナイン編「電脳の夢」 vol.22掲載

ウルトラヒーローシリーズ 12 ジャンナイン

ウルトラヒーローシリーズ 12 ジャンナイン

  • 発売日: 2013/06/29
  • メディア: おもちゃ&ホビー

 第5話はジャンナイン。今回はジャンナインがどこかに出かけて経験を積む、というものではなく、ほぼナインの脳内オンリーで展開します。ほぼずっと対話です。こういうのも映像作品では描写が難しい部分と思うので、小説という媒体ならではと言えます(ジャンナインはほぼ人格なしで『ウルトラマンギンガ』のサブ戦士だったこともあるので、完全に人格だけのものがあるのも結果的にバランスいいかもしれないですね)。
 さて、ジャンナインも結構難しいキャラクターです。ウルティメイトフォースゼロ全員難しいな!?と思われるかもしれませんが、ナインの場合はここまでの露出の少なさからキャラの輪郭を誤ると言うよりも、輪郭を形成していかなければならない点での難しさです。キャラを示すものはちらほらあるんですが、どれも未だ断片的で、確固としたキャラをどう動かすかではなく、こういうキャラだと示していきながら行動させるの段階にあるんですよね(『ウルクロ』で先生役できなかったのもそういう面が影響したのかもしれない)。ギャグ方面にキャラを動かしたのが、『ウルトラマンZ』のボイスドラマだったと言えるでしょう。
 しかし、今回はド真面目な方です。ずっと対話なので、たぶんこれまでに出た映像作品の台詞全部より喋ったんじゃなかろうか。ここも大事なところで、ジャンナインが何を思い何を考えたかを本人の言葉として提示されているので、これまでキャラクターが不定形なのに突然供給があふれてきた感じです。当然ながら、『キラーザビートスター』の顛末も踏まえた言葉です。『キラーザビートスター』ではジャンナインの思いという面で十全ではない箇所もあったので今こういう「救い」が来たありがたさですね。
 対話の中で得られた結論とナインが新たに得た感情…ちゃんとジャンナインらしさがありつつキャラクターがまとまっているので、今後ジャンナインが映像作品でも再登場するなら、是非ともスタッフにはこの小説を一読はしてもらいたい。それくらいのものですよこれは…。あとおまけで言いますと、モロボシくんのファンも是非抑えておくべきかと!な一節もあります。読んで損はさせませんよ!

第6話 「時との邂逅」 vol.23掲載

 最終回は全員で戦います!これまでストーリー重視だったのがバトル展開になりますが、5人とも能力描写をちゃんと抑えていて脳内で映像再現がしやすいいい文章だと思います。敵の描写やまさかの助っ人はイメージボード的なものでもいいのでビジュアルを見たいところもあります。
 ネタバレになるので具体的には言わないことにしますが、この話は最終話でありながら、時系列がやや前後するという不思議な構成になっています。第1話からの話が完結してる反面、第1話からまた読み直すか!となるような…。失礼な言い方になりますが、池田遼氏の文章力がここまであるとは思っていませんでした。もっと色々書ける才能じゃないですか。
 また、今回の小説は『ウルトラゼロファイト』と『ウルトラマンジード』の間の話として宣伝されていました。『ゼロファイト』後なのは当然ながら、『ジード』前と言及されていたことにも意味があったのは、今更ながら『ジード』に至る出来事の事件の超宇宙性をアピールできていて、予期せぬところからのフォローになっていました。TVシリーズの『ジード』ではアナザースペースの描写はありませんでしたが、ちゃんと影響されていたんですね。

まとめ

 最後まで高レベルで完走してくれて相変わらずほっとすると同時に昂揚もしています。何より大きいのはスペシャルステージのノベライズも含めた文庫本が一般販売されることが決定したことです。お金を出せばこれからずっと誰でも読めるようになった、ということはこの作品は限りなく「正史」に近付いたと言えます。値段は850円(税別)!ツブギャラの月会費より安い!一般的な文庫小説と比べてもちょっと安いくらいなのでお値打ちです。
 こうしたことを手放しで喜べるのも、単純なようでなかなか一筋縄でもいかないウルティメイトフォースゼロのキャラクターについて一家言ある私のような人種でも納得できるストーリーを編み出してくれたことに尽きると思います。いや本当に「本気」というものを甘く見ていたな、と。このキャラクターはどうなっていてこれまで何が足りなかったか、どういうストーリーにすればキャラクターの奥行が出て行くのか、ゼロも含めてそういった点にかなり意識的に練られていました。いやあこういうものが今出るとはなあ。アナザースペースに関する新しい事象も豊富に盛り込まれているので、イマジネーション面でもバッチリです!
 さて小説展開は文庫本も出てここで一先ずは完結ということになります。この小説が出たことがゼロ10周年に伴うウルティメイトフォースゼロの到達点になるのか、新しい起点になるのか、まだわかりませんが―私としてはもちろん新しい起点になってほしいですよ!関智一氏も緑川光氏もイベントで新作に出たい!って言ってたじゃん!―かなり大きな実りだったとは言えます。一応ここまでの感想でも核心的なネタバレは避けているつもりですので、興味のある人、気になった方は是非文庫本をどうぞ!前記事でも書きましたが「金になる」とわかるのが展開が広がっていく一番の促進剤なので…。そういう意味では布教アイテムとしても使って行きたいところですね。
 最後に…本当にいいものを読ませていただきました!厚く御礼申し上げます。

※追記(3月14日)
m-78.jp
www.m78-online.net

 そういうわけで文庫本が来ました!(一般販売は20日からですが、特典付アニバーサリーライブ視聴者は1週間早く入手できるのです。)一般販売とはいえウルトラマンワールドM78に発売店舗は限られるようですが、紛れもなくちゃんとした本です!奴らでこうして一冊出たことの喜びと感動は予想以上に一入でした。
 また、アナウンスは特にないですが作者である池田遼氏のあとがきも最後に入っています。列伝の構成から名を顕した池田氏のスタンスや現在のポジションが端的に窺え、この人に書いてもらえて良かったなと思える文章です。ツブギャラで内容は知ってるから文庫本はいらないかなという人でも現在のシリーズにも関わっているスタッフの思いになら900円は…やや高いかな?ただこれだけでも「価値」はあります。
 ちなみに表紙や装丁はわりと漫然とメンバー並べただけなのでそこは残念かな。取って来てる場面も結構違うし。実はカバー下は後藤正行氏のウルティメイトフォースゼロイラストになっています。…そっちをカバー表紙にした方が絶対に見栄え良かっただろ!あと、タイトルに使われている「ウルティメイトフォースゼロ」のロゴが「ウルトラマンゼロ」のロゴではなく「ウルトラマン」(初代)のロゴっぽいものになっており、管見の限り新作です。文字が太い方が背表紙では読みやすいからそういう配慮?
 とまあ文庫本一つでこれだけ書けるのでやはり供給は尊いですね。最後にまた言いますが、興味があれば是非買って読んでね!ウルトラマンゼロが好きなら損はさせない話が入ってるから!よろしくお願いします!

*1:要するに中の人が…ってことでしょうね