志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

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「麒麟がくる」三好長慶・細川晴元登場決定への雑感

 いやはや完全に不意を突かれました。

 12月27日に「麒麟がくる」の公式サイトの登場人物が更新され、三好長慶(演・山路和弘)、細川晴元(演・国広富之の登場が明らかになりました(他には織田信勝松平広忠稲葉良通などが新出登場人物ですね)。


 「麒麟がくる」はご存知明智光秀が主人公の大河ドラマですが、光秀はこれまでの大河ドラマでも織田信長豊臣秀吉やその周辺の人物が主役として出る中、スポットが当たったり当たらなかったりした人物であります。令和2年(2020)に光秀が主役になることで、過去の大河と何が差別化できるのか?というのは大きな注目ポイントでもあります。そうした中、「麒麟がくる」は当初から「最新研究を織り込む」「織田信長を単なる「革命家」とは描かない」旨を公言していました。思えば、この10年・20年で織田信長や戦国期室町幕府の研究と再評価はだいぶ進んでおります。織田信長室町幕府の再評価―これをドラマに咀嚼し、幅広い視聴者に届けるための、言わば「ダシ」としては、幕府と織田家に両属していた経歴を持ち、最終的に信長を葬ることになる明智光秀という存在はうってつけと言えます。そういうわけで畿内戦国史への再評価という観点からも「麒麟がくる」への注目は結構高かったわけです。
 特に私が推している三好家・三好長慶というのは、近年再評価が進んでいるわけですが、戦国期室町幕府織田信長の双方を相対化する可能性を秘めています。そして実は明智光秀とも微妙に縁が深い。三好三人衆は光秀の主敵ポジションにいますし、松永久秀幕臣戦国大名家臣の掛け持ちの先駆け、光秀の領国である丹波を光秀以前に統一的掌握まで持っていったのは内藤宗勝(松永長頼)、本能寺の変の原因には様々な説がありますが、四国説を重視するなら三好康長は間違いなくキーマンです。三好政権時代を描いておけば、明智光秀という存在への伏線が大量に散りばめられるのです。これはまあ個人的な野望ですけれども、せっかくだから採り上げてくれないかなという思いも強かった。


 ところが、続報として出て来る情報はこうした期待感とは裏腹なものが目立ちました。光秀の出身地は美濃に設定され、斎藤道三に仕え、従妹に織田信長の妻となる帰蝶…。斎藤義龍の紹介ビジュアルに載る「出生の秘密」という文字…。「応仁の乱後の荒廃した世」という表現…。おいおい大丈夫か、「国盗り物語」の再生産になってないかという疑惑が強まります。
 畿内からは足利義輝・義昭、細川藤孝、三淵藤英、松永久秀がメイン級人物としての登場が明らかになりました。三淵藤英がメインとして出るのは新しさをかなり覚えますし意欲的ですね。一方、三好家としては松永久秀。この人物も近年再評価が進んだ人物でして、一昔前の「梟雄」イメージはだいぶ刷新されています。「麒麟がくる」ではそうした研究成果を踏まえるのか、踏まえないのか、大いに注目されるところでした。この点、吉田鋼太郎さんが演じると聞いた時は、上手いところを突くと感じました。吉田さんは確かに胡散臭い悪人相ですが、目の奥に純粋さがあるとも思うんですよね。確かに見た目は梟雄としてのビジュアルなんですが、見ようによっては「忠臣」であるという描き方も可能な役者さんで、そこが「麒麟」の久秀の見所になるかとも勝手に考えていたわけです。

 しかし、この期待も久秀のビジュアル画像に「梟雄」明記があったことと、義輝のそれに「悲劇の剣豪将軍」と書かれてあったことで不安に変わります。文言があまりに通俗的完全に義輝が正義サイドだし、久秀は三好家で専横を極めてそうだし、将軍も殺しそうだし、大仏殿も焼きそうです。何よりここまで来て久秀以外の三好人脈の影が一切ない。「応仁の乱後の荒廃」を全て久秀に背負わせてしまい、久秀や義輝を相対化する視点が全く見えてこない。これで本当に新しいドラマになるものなのだろうか。始まってもいないドラマに勝手に期待して、勝手に裏切られてケチ付けてるわけですが、ガッカリ感は確かに存在しているからどうしようもない。
 このまま、三好家は(後半に康長が出る可能性はあるにせよ)出て来ないのだ…。美濃の光秀目線で畿内戦国史をアピールしてもらうなんて所詮無理筋だったのだ…。と覚悟を決めつつあったところへ、12月27日の午後だったわけです。
www.nhk.or.jp

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 うれしかった。畿内戦国史は忘れられていなかったのだ。とりわけ大きいのは細川晴元の登場決定です。三好長慶だけなら単に松永久秀に操られる主君としてカメオ登場みたいなノリもあり得ますが、晴元が登場したことでドラマ的に長慶の「下剋上」を射程に入れていると見なせます。
 また、長慶を演じるのが山路和弘さんという点も注目されます。個人的に一番嫌な三好長慶像というのがありまして「優柔不断で上位者を完全に叩き潰せない、晩年はボケて家を松永久秀に乗っ取られた所詮は旧勢力の男」というものであります。山路さんが20代の長慶を演じるのは無理あるだろ!はご本人のコメントからも窺えますが、それだけに大物感というのは抜群です。吉田鋼太郎さんの久秀は一癖も二癖もありそうですが、山路さんの長慶ならそれさえも自身の手駒として使いこなせる凄みがあります。この家臣にしてこの主君ありを地で行くキャスティングだと思います(若干老けてはいますが、山路さんのビジュアルも長慶の有名な肖像画の悪人度を上げたら近くなるタイプで一致度も高いですね)。
 まあ山路さんのコメントを読むに、「麒麟」の長慶は「細川や畠山の内紛で乱れた畿内を収め一時の平和を実現した」と言うより下剋上の極致で足利将軍家の秩序を引っ掻き回した悪人」になりそうですが、無能よりはヒールの方がだいぶマシです(アンチ幕府重視ですと天野先生の研究にも近いですしね)。三好・松永主従も「善良無能な長慶とそれをいいことに専横する久秀」ではなく、悪人主従になりそうでその描かれ方も気になるところです。長慶が登場確定したことで、長逸ら三好三人衆の出演もグッと確率が上がってきました。こうした環境での久秀像は「忠臣」にしろ「梟雄」にしろ一風変わった、新しいものにはなると思います。
 そもそも長慶って「謀反人」ですからね。細川晴元への反逆は長慶主人公目線だと、「父の仇」とか「畿内国人の利益代弁」とか上手いように取り繕いますけど、主君への軍事蜂起は「謀反」には違いなく、同時代史料でも「三好筑前守謀反」とちゃんと書かれています。それなのに長慶が現代悪し様に言われたりしないのは、謀反の成功を持続させたからです。そういったところを光秀、あるいは久秀の最期と照らして見るのも一興かもしれません。
 そして細川晴元。これまた「麒麟」のビジュアルは年食ってますが(没落する江口の戦いの時でもまだ30代ですよ)、国広さんの晴元は「威厳もあり実力もあるが、器が足りていない、下剋上の敗者」といったイメージが具現化されているように感じます。晴元も登場する、の大きさは晴元は長慶に追放された後もフェードアウトはしないという点にあります。足利義輝サイドがそれなりに描かれることはすでにわかっているので、義輝が長慶に追放されている間は細川藤孝よりも三淵藤英よりも国広さんの晴元がデンと近侍している(はず)です。向井理さんのイケメン義輝との対比が画になるんじゃないかと思われます。
 義輝と言えば、山路さんのコメントによると長慶には殺陣のシーンがあるようです。長慶自身が刀を振るうと言えば、知ってる人はピンと来るアレなんじゃないかと。進士賢光による暗殺未遂事件ですね。巷間には足利義輝ヒットマン投入として理解されていますが、「麒麟」でも描かれるならそういう視点になるんじゃないのかな。単なる悲劇の将軍ではない一面にもなるところですので、義輝像にも膨らみが出ますよね。
 まあ色々話しましたが、結局のところこれらも「勝手な期待」であってどう転んでいくかはわからないところはあります。しかし、期待の仕方、され方の潮流は長慶と晴元両名の出演とキャスティングによって次元が変化したとは言えます。「麒麟がくる」が新しい三好長慶像、畿内戦国像を示してくれればかなり啓発的です。楽しみにしています!