志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

怪獣monsterのコンテンツを中心に興味の赴くままに色々と綴っていくブログです。

デジタルモンスターXの展開を振り返って

 デジタルモンスターX平成31年(2019)3月に第1弾、令和元年(2019)11月に第2弾、令和2年(2020)3月に第3弾が発送されたデジモンギアである。奇しくも初の元号を跨いで展開した育成ギアということになったが、そこには取り立てて意味はない。意味があるのはやはりデジモンの育成ギアと言えば、このXがデジモンツイン以来12年ぶりの完全新作ということだろう*1

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 そして、新作としてはこれまた初のプレミアムバンダイ限定でしか売らないギアでもあった。そもそも流れとしてはプレバン限定でデジタルモンスターVer.20thやデジモンペンデュラムVer.20thといった復刻版があり、この時からすでにスタッフのインタビュー等では「行く行くは完全新作を出したい」といった野望が触れられていた。その意味では今回のXはある意味「満を持して」でもあり、デジモンが生まれてから20年以上経った今「何が出来るのか」という点にも期するものはあった。
 それでは実際どうであったのか。これまでも当ブログではXについて触れてきているし、総括を兼ねて感想を述べることがとりあえず久方ぶりの新作ギアに対する礼儀でもあるだろう。

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 ちなみに私は各バージョン1カラーずつ登場デジモンやデザインに注目しつつ買っていた。パッケージデザインはなかなかだ(個人的にはメタルガルルモンXには思い入れがあるので、パッケージを飾ってくれたのは結構うれしい)が、一般販売がないのに陳列用の穴があったりするのが悲しい。

展開追憶①~X抗体展開とは?

 確か初報が出たのは平成30年(2018)8月21日である。しかし、いきなり情報が出たというわけではなく伏線はあった。7月27日には公式サイト上で「X抗体超投票」なる企画が始まり、50体のデジモンから投票で上位2位となったデジモンをX抗体化させ、今後の玩具展開でも使用するとしたのだ。この段階でカード限定でスレイプモンXとクレニアムモンXが出たり、にじゅっぺ(デジモンペンデュラムVer.20th)には脈絡なくジエスモンXが新規Xデジモンとして参戦していたり、にじゅっぺのアートブックでなぜか直接関係ないX抗体特集にページが割かれていたこともあり、付き合いの長いデジモンファンにとって「次のデジモンはX抗体を大きく扱うのでは?」と考えるのは不自然ではなかったはずだ。
 それはともかくとして、いやだからこそX抗体を本当に大きく扱うギアを出すのは驚きが大きかった。何よりなぜ今更X抗体なのか?という思いは拭えない。当惑がてら、X抗体とは何なのかについてちょっと振り返ってみよう。
 X抗体展開は平成15年(2003)に始まった。それはこの年4月から始まった育成ギアシリーズ・デジモンペンデュラムエックスにおいて…ではなく、2月上旬発売のデジモンカードブースター19で従来の青枠カードとは異なる赤枠カードとしてメタルガルルモンX、ワーガルルモンX、ケルベロモンX、ガルダモンX、レオモンXが採録されたことがスタートだった。当時はまだTVアニメ『デジモンフロンティア』の放送が継続していたが、後続予定のデジモンアニメは予定されておらず、デジモン公式としては「次」を早々に打ち出していく必要があったのだろう。ブースター19採録の5体は3月発売のデジモンペンデュラムプログレスVer.3にも育成デジモンとして登場し、X抗体展開が本格始動する前のファンたちに「何だこいつは!?」というインパクトを残した。
 もうすでにこの段階で色々とフライング気味だったX抗体展開だが、メインのペンデュラムエックスが4月下旬発売で、カードは3月下旬~4月上旬発売だったのでまたもフライング…はどうでもええか。とにかく平成15年(2003)度のデジモン展開はX抗体に大きく舵を切ることになった。展開の特徴としてはストーリーを大きな軸に据えたことが挙げられる。X抗体デジモンイグドラシルによるデジモン絶滅のために散布されたXプログラムへの対抗であり、そのために既存デジモンは姿が変化する。あくまでデジタルワールドの再編を狙うイグドラシルは配下としてロイヤルナイツを送り込みX抗体を根絶やしにしようとする。こうした世界観の中でのストーリーの一端がペンデュラムエックス付属の冊子やカードのフレーバーテキストでも語られ連動した。またペンデュラムエックスから育成ギアに搭載されたコロシアムはペンデュラムプログレスのバトルトレーニング機能を発展させたものだが、マップとボスを設けることでささやかながら、プレイヤーが自分で育てたデジモンでニューデジタルワールドで生き延びるための戦いを再現するものでもあった。
 このようにX抗体展開はアニメという柱がない中でメディアミックス度を高めるべく様々な努力がなされ、1つの到達でもあった、とは言える。この年度はこれに呼応するようにX抗体デジモンばかりの年となった(新規としては七大魔王など非Xデジモンも一応いる)。しかし、固より年度を跨いで展開するようなものでもなく、主人公デジモンであるアルファモンがイグドラシルを倒す(?)とストーリーも終焉を迎え、X抗体デジモンラッシュも終わったのだった。
 X抗体展開は成功だったのか失敗だったのか判断は難しいが、逃げて言うと成功したところもあり失敗したところもある。成功失敗は表裏一体と言おうか、一部の人気デジモンを生んだ一方で大量の死亡デジモンをまき散らしたのである。ペンデュラムエックスに育成デジモンとして参戦したXデジモンは概ね人気が高い(方である)一方、カードでぽっと出で済まされた多くのXデジモンはそのままキャラクターとしては死んだのだった。とは言え、現在でも人気投票をすれば上位に進出できる新デジモンを生み出したのはその後のシリーズが成し得ていない功績であるし、世界観刷新を掲げたからには数を出すのが大事だったのも一応は理解できる。
 しかし、Xデジモンの多くが死亡デジモン化してしまったのはその後の不人気デジモンとは事情が異なる。多くのXデジモンには原種となるデジモンが存在しており、当然ながら原種の方がファンにとっては馴染み深いし人気も高い。X抗体展開のうちはXデジモンが最新のデジモンとして原種を上書きでき(る可能性があっ)たが、X抗体展開が終わるとこれまた当然の如く、公式は原種デジモンを起用していく。例えばペンデュラムエックスの次の育成ギアはデジモンアクセルだったが、ガルダモンXなど微妙にXデジモンを続いて起用していた一方でハグルモンやドーベルモンなどは原種を採用していた(アグモンのようにドットはX抗体なのに紹介画像は原種というような意図不明な例もあった)。その後もなぜかデジモンチャンピオンシップでサンダーボールモンXが参戦するなど例外はあったが、原種デジモン再起用の流れに多くのXデジモンは次々に忘れ去られていった。繰り返すがニッチがそのまま被るんだからこれは当然の結果なのである。
 上でペンデュラムエックスに出られたXデジモンは相対的に人気があると書いたが、これも同じカラクリで理解できる。育成ギア参戦のXデジモンは原種が存在していたとしても名前が変わっているデジモンが多いため(そもそも明確な原種が存在しないデジモンもいた)原種とニッチの食い合いを防いでいる。例えば、ウォーグレイモンとウォーグレイモンXが同時に参戦していたら「どっちかでいいだろ」力が働く(そして原種が選ばれる)が、ウォーグレイモンとガイオウモンだと差別化がなされているように見え「どっちかでいいだろ」力は弱まる(まあこれはこれで別の「グレイモンはそんなにいらねーんだよ」力が働きそうだが)。そういうわけでその後もゲーム等にちゃっかり参戦できていたXデジモンはいた。ただ、それはXデジモンであることを買われたからではなく、(名前という点で)XデジモンアピールされていないのでX抗体無関係でも生きていけるという皮肉な結果でもあった。
 もちろんウォーグレイモンXやメタルガルルモンX、オメガモンXなど名前が変わらずとも人気があるXデジモンもいるが、たいていは原種に有り余る人気がすでにあり「例外」と見なすべきだろう。
 すなわち、X抗体展開が甦るということはこの点で2つの表裏の可能性を秘める。1つは死亡デジモンと化してしまった多くの既存Xデジモンに再び命を吹き込めること、そしてもう1つは新しい死亡デジモンを生産してしまうことである。
 まあそんな御託はともかくとして、X抗体展開は世界観ともども消え去ってしまっており、にじゅっす→にじゅっぺと来てなぜ今X抗体をメインに再び招来せねばならないのか、積極的な理由に欠けていたのは確かだ。幸か不幸か、アニメやコンシューマーゲーム、ソシャゲで一緒にX抗体を盛り上げて行こう!というメディアミックスもなかった(カードくらいは出して良かったと思うが)。一つの成果としてはオメガモンXが立体化されたことだろうか。

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展開追憶②~X抗体とは何だったのか

 上記の危惧がありつつも、とにもかくにもまずはどうX抗体を扱うのかお手並み拝見といった感慨もあった。しかし、X1の展開にはいきなり失望させられた。当時の記事にもしているが、X抗体展開のリスタートであるのにいきなりX抗体以外の要素が普通に混じってきたからというのが大きい。何か理由となる設定でもあれば得心できないこともなかったが、そんなものもなくただただ普通に混じっている。進化の組み方や新規X抗体のチョイスも疑問ばかりだった。
 新規ストーリーであるクロニクルエックスもあったが、イグドラシルやロイヤルナイツが健在で過去のクロニクルとの繋がりが今一つわからないまま、クレニアムモンXとスレイプモンXが旧デジタルワールドに派遣され大した成果もなく(これ本当に見に行きました→ヤバかったで終わってるのすごいよ)、さらにジエスモンXが混沌とした旧デジタルワールドに秩序をもたらすべく、各エリアの代表者を戦わせ最後の勝利者に未来を決める権利を与えるというもの。…混沌としてたはずなのに何でジエスモンXの突然のルール設定には従ってるんですかね?
 ただ、この設定作りは個人的には一概に否定したくはない。かつてのクロニクル展開はペンデュラムエックスのコロシアム機能にストーリー性を持たせるためという側面もあったはずだ。ペンデュラムエックスでのサバイバルとX1のバトルロワイヤルでは趣も異なるが、コロシアム設定への意義付けという点やオレのデジモンで勝ち抜く!という動機付けとしては悪くはない。問題はナイツが出張してきて提案する流れがクロニクル続編という観点からすると茶番みが強すぎるところにあった。
 以上は私の感想だが、管見の限りX1の世界観設定やデジモンチョイスには不評の声というものが目立った。同時期ににじゅっぺのアートブック騒動があったせいか、デジモン担当者もビッグドリーマー田岡からピンチヒッター熊谷に交代し、これに伴ってか、かなり露骨に路線変更が図られることになった。
 X2では七大魔王が大きく取り上げられ、自身が七大魔王に属することでデジタルワールドを侵略していく路線となった。また、デジモンチョイスが大きく改められ、基本的にXデジモンが主軸ラインナップに据えられるようになった。この点に関してはX1がおかしかったので大きな改善と言えよう。しかしながら、X1のバトルロイヤル路線は完全に忘れ去られ(バトルロイヤルで優勝した「君のデジモン」はその後一切ストーリーに関与しなかった)、結局魔王対ナイツという組織戦争へと流れて行く。これまで魔王とナイツが組織としてメイン展開でやりあったことはないし、それぞれに人気デジモンがいるので、ある意味王道展開ではある。しかし、それは同時に安易とも言え(安易さを感じさせないストーリーとはあまり思えなかった)、何よりX抗体を絡める意義は不明確になってしまった。
 一つのポイントはX抗体が完全にストーリー中でパワーアップアイテムと化し、Xプログラムへの対抗措置という側面が捨象されてしまったことだろう。もちろん、今後もX抗体を使って行くのであれば、いちいちXプログラムやクロニクル展開を引きずるのも煩雑ではあるので、こうした「読みかえ」を行なっておくにこしたことはないのも一理はある。しかし、それはその後の作品が考えることであって、クロニクル続編と銘打たれた展開中に行われると続編の意義が失われてしまう。かつてのクロニクルはあくまで生存を賭けた戦いであり、そのキーアイテムとしてX抗体が存在する世界観であった。そこへ勧善懲悪の観念を持ち出すとX抗体は焦点化されなくなる。
 そういうわけでX2は不評に応えるテコ入れが入った結果、そもそもX展開をリブートした意義がなくなってしまったということになるだろうか。X3では満を持してロイヤルナイツがメインに据えられたが、流れとしてはX2から善悪を引っくり返しただけなので感想としては同じになる。ただし、七大魔王がせいぜい7体に留まり両バージョン商法で数を分散できるのに対し、ナイツは13体もおり究極体枠を埋め尽くすという課題を残した。やっぱ13体は多いんだよ!
 かくしてデジタルモンスターXの展開は終止符が打たれた(たぶん)。なお、クロニクルエックスの展開はデジモンウェブ上で簡易連載されていたが、プロットがそのまま載っているような簡潔さの上、「主人公」が設定されていないせいで大変読み応えがなかった。旧クロニクルがカードで一枚絵に「第○章」と題してフレーバーテキストでカッコよく仕上げていたのを見るに、クロニクルエックスも一枚絵に説明を付けて後は想像に任せるくらいで良かったのではないだろうか。アートブックには最終回を膨らませた長編があり、こちらはまだ読ませるものだったが、毎回それが出来ない以上あえて説明しないの一つの選択肢ではなかったかとも思われる(ここは若干後出しジャンケンかもしれないが)。
 そして、今まとめると結果的に危惧通りの展開となったことがわかる。個人的に誕生即死亡したかつてのXデジモンを育成できたのは新鮮味があったし、違った魅力にも気付くことができた。新規Xデジモンも全員が育成ギアには参戦でき、かつてのようにカードでぽっと出死産Xデジモンが生まれなかったのはある種の改善でもあろう。その一方、「Xデジモン」というカテゴリーをこれからも息づかせるための措置は何もなかった。今やデジモンペンデュラムZ展開が始まっているが、X抗体は全くおらずリヴァイアモンも原種が参戦している。時の流れとともにXデジモンは忘れ去られていく…というかもうすでに皆忘れてない?大丈夫?

育成ギアとして

 少し観点を変えて、育成ギアとしての評価を語ってみたい。一部は過去記事とも重複する*2がご寛容願いたい。
 デジタルモンスターXは基本的には評価が高い。にじゅっすやにじゅっぺがあってこそであるが、デジモンギアとしては基本線であったこの2作をリメイクするという経験によって、何が基幹で、何を新しくできるのかという点は制作陣やプレイヤーには明確化されている。ごはんをあげる、トレーニング、ウンチのスケジュールは余裕があるものとなっている。もっとも就寝管理について究極体にもなると、24時就寝がデフォになってしまい、流石に遅すぎる(誰もが日を超えて起きてると思うなよ)。時計を弄るという手もないではないが、各デジモン7時起床なので時間を早めれば早めるほど起床時刻も早くなり、6時すぎくらいに寝ぼけ眼で「ん?今イベント音したか?」みたくなり、これまた不健康である。ここはもうちょい何とかしてほしい。
 話題が逸れた。他には進化のスケジュールもあるが、これも穏当ではあるだろう。
 新要素としてはXAIシステムの導入がある。もっともこれはペンデュラムエックスの要素でもあるので厳密な新要素ではないが、日付が変わるごとやクエストのたびに行われることで難易度やイベント頻度が変更されるものである。なくても寂しくはないが、あったらうれしい感じのシステムでこういうのがゲームの中ではそこそこ効いてくるんですよ。レベル制も強さの可視化としてなかなか良い。
 新要素として一番大きいのはカットインの実装である。デジモンは基本的にドット上の存在なのでドットと公式絵の印象が乖離してしまうこともあるし、そうでなくても別の存在に見えることがある。カットインはそのギャップを埋められるものであるし、必殺技前に挟まる上げ演出としてっも優秀であり、今後のギアで定番になってほしいものである。
 進化系譜の組み方に関してはX1は滅茶苦茶だったが、X2・X3はそれぞれ基幹となるテーマ性が存在しているおかげか、積極的に異を唱えたくなるようなものはなかった。まずまずとは言えるだろう。ただし、ディアボロモンXやベルゼブモンXや一部のナイツは複数作に登場しており、目新しさという点ではアンバランスである(こうしたところからっもX1→X2で方針転換があったことが窺える)。
 以上をまとめるとやや細かい難点はあるが、デジタルモンスターXは基幹である「育成ゲームであること」を生かして現代版のギアとして成り立っている、とも評価できよう。
 ところが、実はXにはそれらを吹き飛ばしかねない大きな問題点が存在する。電池切れが頻発することである。もちろん個体差がある現象ではあるが、酷い時には数時間おきに電池切れ表示が発生し、そのたびに電池を入れ直すことを強いられる。電池を食うのが速いというわけでもなく、電池容量が尽きていないのに電池切れ表示が出て、電池を入れ直すと復旧することが繰り返される。本体に何らかの問題があるのは明らかであり、X3に至っても大幅な改善はついぞなかった。
 Xはデジタルモンスター(にじゅっす)のガワをそのまま流用しており、それにスペックが付いていけていないという説もある。確かにはわからないが、最後まで改善されなかった以上何らかの容易ならざる問題ではあろう。必要以上にプレイ欲を奪ってしまう仕様には違いなく(何せ1週間もまともに継続して育成できないのだからまともに遊べないのと同義である)、これだけで評価はかなり下がる。
 これらを勘案すると、Xは可能性の塊とでも言うか本来発揮すべきポテンシャルを発揮できずに終わったギアとでも言えようか。

新Xデジモンデザイン評

 デジタルモンスターXでX抗体展開が行われたことにはデザイン面についても意味がある。かつてのX抗体展開では多くのXデジモンNaoyaなる人物(結局誰なんだ…)がデザインし、As'まりあ氏が主力デザインを固める体制でXデジモンとはこんな奴らだというビジュアルを作った。それはディテール過多であったり、生っぽさの発露であったり、ただ単に気持ち悪くなっただけだったり、そもそも変わり映えしなかったりと波乱含みであったが、方向性を形作ったのは確かだ。そしてそこにはXデジモンが過去存在しなかったことによるオリジナリティも確かにあった。
 こうした第一波(?)に比べると、後発の今回は公式でありつつもどうしても二次創作臭は拭えない。Xデジモンらしさはすでに所与のものであり、これをどう再現するか、その上でどう新しさを見せるのかという世界になる。一方で大半の過去のXデジモンは必ずしも評判は良くないと言うか、カード単発で終わりという奴らは「何かキモいアレンジが出たな」という印象止まりにすぎない。それがXデジモンらしさの一端ではあっても不評である以上取り込めるようなものではなく、バランス感覚も本来求められるはずである。
 そうした観点からここでは設定よりもデザイン面での評価を行いたい。最初は各デジモンごとにコメントを付していたのだが、正直めんどくさかった上、一言で終わってしまうようなデジモンもいたのでデザイナーごとにあれこれ言う方式とする(敬省略)。一応、X抗体についてどのようにアプローチしたかを焦点化することを目標とする。

  • 渡辺けんじ

 ウィザーモンX、ヌメモンX、オメガシャウトモンX、レディーデビモンX、サクヤモンX、ミネルヴァモンX、ルーチェモンXを担当。
 渡辺けんじ氏はデジモン初発時から関わり続けているデザイナーであのアメコミタッチな公式絵も氏の発明。つまりはデジモンの生みの親の一人でもある。かつてのX抗体展開はこれを逆手に取り、渡辺けんじ氏がデザインしないことで新たな風味をデジモンにもたらそうとした側面もあった(X抗体展開の中でも渡辺氏デザインのXデジモンは存在したが、いずれも「~モンX」ではない新種だった)。そういう意味では渡辺氏がX抗体をデザインするのはコンセプトからしてかなり自家撞着的である。
 前提として渡辺けんじ氏の描き方はデジモン誕生以来経年変化している。手癖がかなり固定化されるようになったとでも言おうか、手足が末端にかけて徐々にしかも極端に細くなっていったり、小さいベルトを細かく装備していたり、女性型だと乳は球状に突出し、腿が太い。近年は何を描くにせよそういう良くも悪くもメリハリ的な描き方をされている。そして、新規X抗体もほぼそういった特徴が出ていると言える。確かにこれらのメリハリはかつてなかったので、原種との印象の違いにはなっているが、X抗体らしさが意識されているとは言い難い(一応Xマークとかオメガシャウトモンの旧式インターフェースとか付けてるけど、せいぜいそんなところなのである)。
 ただ、前述したようにそもそも渡辺けんじ氏ではない新風がX抗体だったので、それを渡辺けんじ氏にやらせようというのは最初から何かおかしかった。かつてのように新種をデザインさせれば良かったのではないか(まあ今回は新種自体いなかったんですけど)。

  • As'まりあ

 メタルグレイモン(ウィルス)X、オグドモンX、ジエスモンGX、ダークナイトモンX、ラピッドモンX、リヴァイアモンX、ロードナイトモンXを担当。
 As'まりあ氏はデジモンではカードイラストから入ってきたイラストレーターで、カード時代からデジモンを独特なアレンジで描くことで人気が高かった。かつてのX抗体展開ではメイン究極体のX抗体デザインを担い、多くの人気Xデジモンを生み出した。その特徴を簡潔に言うなら機械的な質感に裏打ちされたディテールアップの手法が王道のカッコよさを醸し出していることだろう。宝石のようなクリスタルパーツが散りばめられているのもいわゆる男児的訴求力が高い。そしてそれは間違いなくX抗体っぽさに直結していた。
 そういうわけで、同じ人が描かれる以上、自然にX抗体らしさは備わっている。ただそこにも経年変化はあると言うか、技術の進歩と言おうか、細部への表現が可能になったため、かつてと比べると明らかにディテール過多気味になっている。一言で言えばかなりごちゃごちゃしており、カッコよさを感じるより前に情報量に圧倒されてしまうところがある(ディアボロモンXやダークナイトモンXは丁度良いのだが)。ジエスモンなどは元からデザインの情報量が多いのでそこに輪を掛けるわけでもう何が何だかわからない。
 またリヴァイアモンXはディテールアップだけでは印象変更に限界があると思われたのか、設定を考える人とのすり合わせなのか翼が生えているが、こういう意匠の追加はAs'まりあX抗体っぽくはない部分ではあったと思う。

  • 中野牌人

 インプモンX、ケラモンX、ドラコモンX、オーガモンX、ペガスモンX、ヴァンデモンX、オファニモンX、オファニモンフォールダウンモードX、ガンクゥモンX、ケルビモン(悪)X、ケルビモン(善)X、バルバモンX、ベルフェモンX、リリスモンXを担当。
 中野牌人氏はデジモン公式絵なども手掛けるイラストレーター。デジモンとはここ10年くらいの付き合い…と書くと意外と長いな。公式絵を描かれる時は渡辺けんじ氏が創出されたデジモン風味に近付けるが、元のタッチは線は細く表面の質感はむしろ平坦で、いわゆるデジモンっぽさとは距離がある。中野氏は古参スタッフというわけでは全然ないのでX抗体をどう自分なりに咀嚼するのか注目はしていた。
 特に個人的に珠玉なのがドラコモンXだ。ベタモンXやガジモンXのような原種のワンポイントを肥大気味にアレンジして生っぽいタッチで仕上げるX抗体みを再現しきっており、デザイン面における「今出せるX抗体」の正解の1つではなかろうか。氏のある種の無機質っぽさがX抗体っぽさへの仕上げとしてはいいように機能したようにも見える。

  • 森山奏

 アグモン(黒)X、ティラノモンX、ダークティラノモンX、ライズグレイモンX、エグザモンX、デーモンX、ホウオウモンXを担当。
 森山奏氏はデジモン黎明期から携わっているイラストレーター。デジモンがヒットしたのは良いが、渡辺けんじ氏一人では公式絵生産が追い付かなくなったので補佐として入ったのが端緒だが、そのうちデザインも任されるようになったお方。どうにも渡辺氏の影に隠れがちではあるが、バリバリの古参スタッフである。渡辺氏のタッチが経年変化した今、森山氏のイラストこそデジモン公式絵のパブリックイメージに近いかもしれない。
 そんな氏のX抗体へのアプローチだったが、穏当なタッチ同様(?)、生っぽさ・リアルの重視(アグモン(黒)X、ティラノモンX、ダークティラノモンX)、あずまりクリスタルの配置(エグザモンX、デーモンX)、ホウオウモンX(火○鳥やんけ…)と過去のX抗体の特徴をとりあえず取り込んで仕上げている。私としてはティラノモンXはX抗体として好きだが、それ以外はX抗体としては迫力不足な印象が先行してしまう。一言で言えば弾けていないのだが、まとまりの良さは私が考える氏の美質でもあるのであまりとやかく言いたくはない。

 テリアモンX、レナモンX、ロップモンX、シーサモンX、エンジェウーモンX、ベルスターモンXを担当。
 姫野かげまる氏はポケモンカードイラストレーターとして著名なお方だが、旧X抗体展開でもサンダーボールモンX、マメモンX、メタルマメモンX、プリンスマメモンXのデザインを手掛けており、その流れでの参加ということになる。…の割に今回特にマメモン系の新規X抗体をデザインすることはなかった。まあ今更トノサママメモンやバンチョーマメモンにX抗体用意しても困るか。
 氏のイラストは可愛さを伸ばす印象があったので、今回様々な芸風が見られたのは引き出しの多さを感じた。レナモンXはおどろおどろしさを強調するイラストになっているし(ただ成長期担当としてはやや情報過多か)、ベルスターモンXのような生っぽさを醸し出す大人の女性のタッチは新鮮だった。ただX抗体が多く持つ生理的嫌悪感部分が刺激されないのは、氏の育ちの良さのようなものが窺える。例えば、エンジェウーモンXは裸に透け布というえっちちデザインだが、エロスを強調するタッチにはなっておらず、発想の類似が見られる渡辺けんじ氏のデザインとは距離がある。
 ただ、全体的な問題として、ロッテリアXの増毛と宝石や上記の生っぽさなど所々にX抗体風味を取り入れようとする形跡はあるものの、原種との印象の転換はそこまでない感を覚える。やっぱり品が良いんですよね。デジモンをさらにぼてくりこかすようなX抗体にはそもそも不向きだったのではないだろうか。

 メラモンX、サイバードラモンX、もんざえモンX、ジャスティモンXを担当。
 PLEX!?PLEXと言えば、キャラクター玩具の製作やデザインを行うバンダイ傘下の企業である。仮面ライダーをデザインしていることでお馴染みだが…何でX展開に参加しているんだろうか。結局ここらへんの事情が明らかになることはなかった。個別のデザイナーも不明なためどのように指針を持たせたのかはよくわからない。
 X抗体デザインとしては外注の割に上手く読み込んでいたのではないだろうか。メラモンXのコンセプトの変更はないままタッチを変えてザコモブキャラっぽくしたり、サイバードラモンXの「サイバーなドラゴン」を再構成して原種とは別物にしてしまったり、ジャスティモンXのトリニティアームをいっしょくたにしてパワーアップ!方式であったり、実に過去のX抗体を研究、再現しているのではないだろうか(特に言うことがないもんざえモンXももっとぬいぐるみのリアルさを押し出すのでも良かったかもしれん)。まあそれがリデザインとしてスゴイ!にならない妙味がX抗体なのでわりと懐かしかった。


 なお、全体的な傾向としてとりあえずどこかにXの意匠を入れておけというものが見られた(ドラコモンXやメラモンX、レディーデビモンXなど一デザイナーだけでなく普遍的に存在)。かつてのXデジモンではなかった特徴なので、今回新しく取り入れたものということになるだろう。しかし、XデジモンなんだからX入れておけとはまた安易な…。
 全体的な印象としては、そもそもいつものデジモンの仕事をしている面々にX抗体を手掛けさせるという問題もあるが、X抗体のイメージとして強いNaoyaっぽさを出すのに四苦八苦しているように思った。Naoya風味がないとX抗体っぽくもならないわけだが、別にNaoya風味を再現されても特にうれしくはないというジレンマに苦しみ続けたとでも言おうか。やっぱりこの点からもX抗体リブートするべきではなかったんじゃ…

総評~デジモン展開の中でのデジタルモンスターX

 最後に総評と題して、デジタルモンスターXが何だったのか、語りたいと思う。もちろんここでの評価は暫定的なものにすぎないが、シリーズを冠した展開である限り、シリーズ全体に何らかの遺産を残したかどうかが「何だったのか」を知る一つの鍵である。
 その意味ではとりあえずデジタルモンスターXに存在意義がないことはない。すでに新しいデジモンギアとしてデジモンペンデュラムZが展開しており、ギア展開は引き継がれた。Xはこれを境にギア展開が途絶える戦犯にはならないし、将来的にもこの平成終盤~令和のにじゅっすからリスタートしたギア展開は一連のものとして語られることになるはずである。Xは役目を果たしたのである。
 しかし、これは最低限の存在意義である。積極的に評価するにはやはり何らかの人気デジモンを生み出せたかどうかやXの存在によってX抗体展開がより多くのファンに身近になったか、それを公式が評価しているかという点に依ってくる。これらを考えるとX展開はどうにも覚束ない印象を持つ。どうですか?今回のX展開で誰か新しい人気者になれましたかね?
 より大きな問題になってくるが、これは結局近年のデジモンコンテンツにおける主人公の漠然とした不在(付記参照)が大きく影響する。にじゅっす・にじゅっぺにおけるLegend-Arms、既存のデジモンの新たな形態、Xにおける新規X抗体展開…どれも一発ネタに近く、シリーズを跨いで新たな顔役を作ろうとする意志は全く感じられない。
 ただ、育成ギアは正直デジモンへの具体的な訴求力は高いものではない。デジモンはすぐ進化するし最後の究極体もいずれは死ぬ。人間老けると体感時間が速いので、どうしても各デジモンに愛着を持てる時間は短い。カットインというフォローもあるが、ドットだけでは公式絵ほどの情報量には事欠く。バージョンごとに新作である以上、同じデジモンを「主人公」として使いまわすのも本来はしにくい(今回のXでも一部のナイツやディアボロモンXは複数回出てたけど…。またペンデュラムエックスがバージョンによってドルモンの進化先を変えるのも一つの手段ではあったのだろう)。クロニクルエックスのストーリーやミニブックはその点では一つの補填手段ではあったが、中身はあまりなかったのでどうにも効果があったとは思えない(ないよりはマシくらいだろう)。
 顔役を作るには育成ギアは不向きだが、逆に言えばだからこそデジモンチョイスは重要であるし、売り出し方が問題になってくる。X1の時は非Xデジモンが紛れているのを非難したが、これは何の裏付けもなかったのが悪かったのであって、売り出すポイントさえ明らかであればやりようはあったはずである。例えば、にじゅっす・にじゅっぺではブリッツグレイモンやクーレスガルルモン、グレイスノヴァモンなどが鳴り物入り(?)で新登場したが、X抗体と絡めるのであれば「ブリッツグレイモンがあっさりやられた…旧デジタルワールドは何て危険な世界なんだ…」とかあるいは逆に「クーレスガルルモンはX抗体なしでもXデジモンとやり合えるのか!?」のような展開やキャラ付けも可能であったはずである。そういうキャラ付けがあれば、育成可能枠や逆にコロシアム限定デジモンに非Xデジモンが混じっていてもおかしくなかったし、X2以降の非Xデジモンながら新規(エリスモン系譜やノーブルパンプモンなど)というデジモンにも色が付いたのではないか(色が付く自体は是非がありそうでもあるが、そんなん言い出したらXに出てるのも変だからな)。これ自体は勝手な思いつきの範疇を出ないが、継続して新デジモンを売って行き人気者を作る手立ては何等か考えられるべきだろう。
 この点については現在好評なデジモンペンデュラムZ展開も同様で、良くも悪くも登場デジモンににじゅっす・にじゅっぺ・Xからの連続性はない。XはX抗体というそれ自体が「普通」ではないデジモンをメインに据えたわけだが、それだけにより一層近年のデジモンが抱える一発ネタありきの風潮が浮き彫りになってきたと言えるのではないだろうか。
 最後にそれっぽくまとめておくと、こういう「継続性」に文句が言えるようになったこと自体がいい傾向ではあるんではないですかね。死ななかったらそのうち巻き返す機会もあるだろうくらいの希望は持って生きたいですよね(適当)。

付記 ジエスモンについて

 上で主人公デジモンについて「漠然とした不在」という表現を使ったが、実は「主人公」が不在かと言うとそうでもなく、クロニクルエックスでは何となくジエスモンXが主人公っぽいポジションで、最終的にジエスモンGXという新たな姿を手に入れた。ジエスモンはデジモン15周年記念デジモンであるハックモンの究極体で、ハックモンともどもゲームやアニメでの出演も多く、近年の(つってももうそろそろ登場して10年くらい経つぞ…)新デジモンの中では手厚いバックアップを受けている方ではある。それだけにきちんと推してくれれば、人気も伴うのではないかと思っている。と言うと人気がないみたいだが、実際のところ人気があるのかはよくわからない。グッズが本格的に出てくれればこちらとしても人気の測りようもあるのだが…。正直ハックモンやジエスモンは嫌いではないし、新デジモン(ではとっくにないけど…)代表になってくれるのは大いに買いたいところではあるので、もっとまともに「商売」してほしい。

*1:クロスウォーズミニ?あんなのは育成ギアとは呼びません

*2:と言うかほぼ焼き直し