志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

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大東市立歴史民俗資料館・特別展「三好長慶と大東市の中世―飯盛城はそのとき―」

 今年は三好長慶生誕500周年!ということで、この秋は博物館展示やイベントが目白押し!9月23日から始まっている高槻市しろあと歴史館の特別展「戦国武将 三好長慶―生涯と人々―」に続く形となったのが、大東市立歴史民俗資料館・特別展三好長慶大東市の中世―飯盛城はそのとき―」!10月15日から12月11日の開催となっております。
www.city.daito.lg.jp
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 観覧無料ですが図録は1000円となっています。

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 三好長慶を紹介する漫画も500円で11日より売っているので布教にうってつけですね。

 さて内容としては、しろあと歴史館の展示が「三好長慶」について文書を中心に、地域的な広がりを見せるものだったのに比べると、今回の展示は大東市と飯盛城にフォーカスしていく中での「三好長慶」に注目するものとなっています。そのため、文書の展示は控えめ。というか考古資料がメインですね。個人的には考古資料は評価の仕方がよくわかっていないこともあり、感想も書きにくいのですが、遺物は実際の使用が見込まれていたものでもあるので、生活感を感じ取ることができます(くらいしかなかなか言えない…)。
 今回初展示となるものとしては(永禄3年)4月6日権少輔宛三好長慶書状飯盛千句があります。前者は後述することとして、この飯盛千句については展示が様々に工夫されていて、現物がある強みを生かしています。具体的に言うと、この飯盛千句は写本なのですが、なぜ写本と判断できるのか、その書写の特徴や書写年代の比定といった資料解析の手法をガラスケース付近で詳細に説明してくれています。これは資料初心者に興味を抱かせるにはとてもありがたい試みで、引いては資料の何が大事で博物館に公費で収めなければならない事情などもアピールできるのではないかと思います。
 権少輔宛三好長慶書状は『戦国遺文』では出典を岡本文書としている史料ですね。長慶が安見宗房を攻めるにあたって飯盛城下で軍事行動を行ったことが記されており、そうした点に注目しての収蔵でしょう。この史料とは直接関係ないですが、権少輔宛の長慶書状は他にもあるものの典拠がバラバラかつ、実質的な宛所は権少輔の主人である公家の水無瀬家と思われるもので、三好氏と水無瀬家の親交を考える上でも興味深く思われます。
 他にもパネル展示ながら気になったものとしては『雑々書札』。直近で『雑々書札』を見ていたら蘆名盛氏三好長慶の通信記録を発見してしまい、それをTwitterでつぶやいたところほどほどに話題になったのですが、たまたまそれが足利義輝の長慶への飯盛入城を祝す御内書と同じページにあったため、何と今回の展示に含まれています。『天下人と二人の将軍』では長慶の遠国通交には懐疑的な書き方がなされていましたが、蘆名氏との通交の事実はそれに一石を投じることになる可能性を秘めているので注目されてほしいですね。
 また『松雲公採集遺編類纂』所収「渡辺文書」も展示されていたのは三好義興書下のみではありますが現物は初めて見ました。今あるのは明治時代の写となりますが、かなり忠実に写されているようで、義興の花押の形状はまさしく永禄4年段階のものと見てわかるレベルで感動しました。「渡辺文書」には他にも三好関係者の文書が収められているのでいずれは全て確認してみたいですね(ちなみに今回の展示でも義興書下の直前に同じページということで、三好康長の書状の末尾(署名や宛所部分)もちょっと映っています。図録では省かれているので要チェックや!)。
 図録は1000円で標準的な価格でしょうか。特別寄稿として、天野忠幸「三好長慶と千句連歌」、中井均「三好長慶の築城―飯盛城を中心に―」があります。天野先生の論稿は長慶と連歌の関わりや人脈を整理していくもので、半竹軒が再評価されていたりするのが面白いですね。またこれは私の個人的な興味になりますが、永禄初期の寺町氏も通昭と同一人物認定されていて、堺市の方でも寺町氏の文書が展示されるのも合わせてどういう評価に落ち着いていくのか期待です。中井先生の論稿は、具体的な話をしながら長慶の城や飯盛城の特異さをわかりやすくアピールするものになっており、考古資料の見方というものに大いに啓発的です。飯盛城の御体塚郭が長慶が勧請した新羅善神社である可能性にも積極的に言及していて今後施設面でも話題が深まるといいですね。
 今回は三好長慶がテーマではありますが、同時に中世の大東市や飯盛城をアピールする狙いが見受けられ、生活や文化といった面が強く、そういった点はしろあと歴史館の展示とは上手く差別化できています。ただ、そうであるならば、もうちょい具体的なイメージを喚起させる展示はあり得たのではないかとも思います。冒頭でも紹介したように大東市は長慶の漫画も売っていたりしますし、今回の展示に合わせた催しも連歌や茶会や飯盛城ハイキングといった「実際」に触れるものになっていますので、試みとしては発展途上といったところでしょうか。まあ展示自体は無料で、見て損することはまずありませんので、近畿圏の皆さんは観念して「謹上 蘆名修理大夫殿 修理大夫長慶」を見に来ましょう(趣旨変わってる!?)。
 10月29日からは現状では三好長慶生誕500周年のトリとなる展示が堺市博物館で始まりますし、三好の秋を楽しんでまいりましょう。