『ウマ娘 シンデレラグレイ』のアニメ化には相反する感情があった。一つは満を持してという感覚。漫画『シンデレラグレイ』のクオリティが高いことは間違いなく、それがようやくアニメ化、しかもダイジェストではなくたっぷり2クールを取ってという贅沢さ(2クールで全編やるのは無理なので最低でも4クールは見込めるはずだ)!そのままアニメにするだけで傑作になるのは想像に難くないだろう。一方で、気になるのはすでにお話の内容はわかってしまっているという点だ。これはこれまでのウマ娘のアニメが毎回どうなるのかわからないワクワク感があったことを思うと、明確な落差と言うか「手の内がわかってしまっている」怖さがある。同じ話なら漫画を読むだけでもいいのではないか。アニメならではの良さ・長所を出せるかが視聴の鍵になりそうだ。
ぶっちゃけると、新鮮みの出し方としては何だかんだ新しいウマ娘が出るんだろうと予測していた。例えば『シングレ』ではディクタストライカが登場するが、彼女のキャラ造形と戦績はサッカーボーイをベースにしている。当時は社台ファーム所有の競走馬はウマ娘になっておらず、許可を取れなかったゆえの措置だろう。逆に言えば許可が取れるのであれば、サッカーボーイを偽名にする必要性もない。そして2025年現在、社台ファームからウマ娘になっているメンツは複数おり、もはや障害はない。であれば、アニメ化に合わせてディクタストライカがサッカーボーイになってもおかしくはない。そういう出し方になるんじゃないかと予測…いや期待していた部分もあったのだが、全くそんなことはなかった。余計なことは何もしない正統な「アニメ化」だったのだ。
それで実際どうだったかと言うと、「アニメ化」部分だけ見ると半々だろうか。キャラデザも多少は丸くなっているし、原作のギャグ顔なども崩れ方が抑えられていたりした。漫画ならではのそういったキレを十二分にアニメ化できていたわけではないのは、漫画のヤエノムテキやタマモクロスの表情が好きだったことから見て、率直に残念とは言いたい。また、やっぱり見せ場となる最終直線が長い問題は漫画そのままで、これはアニメ化にあたってはややシュールに過ぎると言うか、本当に最終直線でどれだけ喋って走ってるねん感が増幅されてしまうな…。元の漫画だと時間軸は読者が補完できるのに対して、アニメになると動きが追加されてしまうので、最終コーナーをこんだけ走ってたらゴールに着くだろ!という感覚がより如実になってしまう。これまでのアニメ化でもあった問題だが、『シングレ』、特に今回で言うと1クール最終話の天皇賞(秋)はやたらに長かった。クライマックスなだけに致し方はない、のだが…。
一方で、作画は安定していて、漫画での名シーンやレースに動きが伴うことには十二分の満足感があった。作画だけで評価が決まることはないが、どうしても作画パワーに欠けるとちまちまとした失点を重ねることになってしまうのが全くなかったのはやはり大きい。それらを支えているのに声優陣の熱演が入ることも間違いない。ウマ娘が走るということのパワーをこれまでのアニメでは如実に感じてきたが、オグリキャップ役の高柳知葉さんもここまでやれるとは思っていなかった。失礼ながら見くびっていた。キタサンブラック役の矢野妃菜喜ちゃんやジャングルポケット役の藤本侑里さんもだったが、声の芯が太く入るからどういう演技してもビクともしない、そんな感覚をオグリキャップでも味わえるとは…。これが主役たるということなんだなあ。オグリについては今後も大きなレースも敗北もあるわけだが、もう何が来ようと高柳さんなら何でも出来るだろう。そういう信頼感が情勢できた。
他にも声優面についてはケチの付け所がない。『シングレ』オリジナルの北原、六平、ベルノライト、フジマサマーチ、三馬鹿…全員が漫画から抜け出てきたような声そのままで違和感が仕事しなかった。特に北原役の小西克幸さんはこれ以上ないほどのハマり役で、原作の感動的な局面から普段の3枚目の部分までこの声、この演技ならではの魅力増幅ぶりだ。こういうベテランのプロフェッショナルぶりも、ベルノライトの瀬戸さんの初々しさもどっちも体感できるのが、こういうコンテンツの醍醐味だよね。
推しウマ娘についても触れておきたい。まずはサクラチヨノオー。アプリでの育成シナリオはまさしくど根性ヒロインぶりが魅力だったが、正史をベースにする『シングレ』で期待することは何につけても日本ダービー!実際に、喉が裂けるほどだったという叫びの熱演、その後の喜びよう…おれはこれが見たかった!ぶっちゃけるとこれだけでもアニメにしてくれた価値がある。サクラチヨノオーがオグリ世代のダービー馬だと知らしめたかった(?)。一方で、マルゼンスキーとの絡みがダービーに向けて盛られていったのも良かったのだが、2人にどういう関係があるのか、ダービー勝利をマルゼンさんに捧げるということの2点は今一つフォローしきれてなくてそこは残念だったかもしれない。何よりもアニメに出て活躍したということ自体の効果もすごく、グッズも大量に出たし、オグリを差し置いてセンターになったこともあった。まさしく福利厚生の充実ぶりだが、裏を返せばチヨノオーのレースでの活躍はこれが最後でもある。『シングレ』では安田記念での復帰や惨敗・怪我再発による引退を全く描かなかったので、現在でもチヨノオーの位置付けは浮いたままで、それがアニメでもそのままかと思うとあまりこれからの心象は良くない。それだけにダービーでの勝利をきちんと描いてくれたのはうれしかった。本当にうれしかった!ありがとう!
そしてタマモクロス。いきなりだが、『シングレ』のタマモクロスにはやや微妙な距離感を抱いている。オグリ周りではダービーという一点突破型のサクラチヨノオーと違い、タマモクロスは馬生を通してかなりドラマ性があり、アプリでの育成シナリオではそれを根性シナリオに落とし込んでいたと言える。これに対して『シングレ』ではオグリ主人公の都合上、どうしてもフィーチャーの側面が「オグリを主人公にする中でのタマモクロス」に限定されることになる。スーパークリークやヤエノムテキ、メジロアルダンといった同期のウマ娘たちはオグリ視点でも「自分の物語」を紡げていけるのだが、タマモクロスの場合「最初のボス」という側面が強くて、決して恵まれていないバックボーン、挫折などの要素は薄く、どうしても片手落ちに思えてしまうのだ。とは言え、圧倒的強者のタマモクロスがカッコいいのも間違いなく、その点もかなり楽しませてはもらっている。でもタマモクロスはそれだけじゃないんだよな~オグリキャップの物語からは見えないけど…という感覚なのだ。
ちなみに個人的推しウマ娘についてはナイスネイチャが2期、アドマイヤベガが『RTTT』でメインを張って活躍するレースは描写されたので、トップ4人全員がこれでアニメでの活躍が描かれたことになる。これは相当強運というか、ありがたい話だ。ヤマニンゼファーは…2期でもう別なキャラデザで勝ってたから、アニメで描かれることはなさそうだけど…。
上のニュータイプで野口瑠璃子さんの『シングレ』への思いが聞けたのも良かった。他のキャストと違ってあまりコンテンツ自体への思い入れなどを発露する機会がないので…。
まとめ
とりとめのない感想ばかりでまとめることある?という趣だが、つまるところ原作漫画のいいところもシュールさも増幅してお出しされた…というところになるだろうか。1クール目はオグリの中央初敗北である天皇賞(秋)で終わり、次はジャパンカップ。久住先生一押しの海外ウマ娘たちがぞろぞろ出てきて、そのキャラの強さはこれまでのオリウマ娘の比ではない。まさしく世界のスーパースターが揃うのをどう描けるのか。単純にタマモクロスを打倒してようやく中央GⅠを制覇する有馬記念もある。うむ、何度も思い返されることだが、『シングレ』はそもそも原作漫画が無茶苦茶面白いのだ*1。本当にこれは漫画を読むたびに思ってしまう。アニメ化についてのメリット・デメリットの話をしても、大元が面白ければもうそれが大正義だ。いや、ここまで語って来て辿り着くのがそこかよって思いもあるけど、実際そうなんだから仕方ない。その面白い原作パワーを十二分に表現できるという実力を示したのがまさにこの1クールだったと言える。アニメならではの補完もあったことだし、今後も「決定版」とも言えるクオリティを期待している。


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