※この記事中には映画の内容に関するネタバレを大いに含みます。初視聴の驚きや感動を体感したい方にはおススメしません。
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配信作品『ウマ娘 プリティーダービー ROAD TO THE TOP』はウマ娘メディア展開の新しい可能性を示してくれたと思う。一人のウマ娘のレース歴を追いかけるのではなく、特定の期間を取り出して特定のレースをテーマに複数の思いが絡み合う群像劇を30分×数話で展開する。この枠組みによって様々なウマ娘がフィーチャーされることを期待していた。そしてその時は意外と早くやってきた。劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』!ジャングルポケットとその世代を中心に、いよいよ待望の映画作品となった!
いやー来ましたねえ。オペラオーやトプロも出るのでRTTTの続編要素もありつつ、ジャングルポケットを主役に据え、人気のアグネスタキオンとマンハッタンカフェも取り込む意欲作。この時間でクラシックをできるというのはRTTTで証明済だし、2周年アニバで現れたジャングルポケットもタキオンもカフェも一概に美少女化というベクトルだけでは測りきれないキャラクターだ。さらに史実タキオンは皐月賞後に引退してしまうわけで、(引退自体はアニメ3期でもメインで取り上げられたが、)その後はレースを走らないメインキャラをどう料理できるのか、様々なチャレンジがありそうなのも楽しみだった。
特典はタキオン多め。好かれてるのか?
(「感想はさっさと提出できましたか…?」「できませんでした…」)
まずプロローグ的に始まるのはフジキセキの弥生賞から。それを観戦するのがトレセン入学前のジャングルポケットとその仲間たちということになる。しかしてここからがもうすでにすごい。レースの音響、ザクザクと進む蹄鉄の音…それに生活がかかってるかのような真に迫った声援全てが競馬場で聞いたそのもの。芝の臭いや感触が五感に訴えかけてくる気配さえあって心地良い。その中悠々と優雅に、そして強く勝つフジキセキの神々しさ。レースに惚れるポッケの心情への共感としてこれ以上のものはなかった。もうこの時点でおれはうるうるしてたよ。フジキセキは実の所そんな好きなウマ娘じゃないのに何でだろうな…。映画の力をこれほどヒシヒシと感じるのはなかなかない。
そして主題歌「Ready!! Steady!! Derby!!」とともにポッケがトレセンへ入学し、フジキセキと出会いタナベトレーナーの下、デビュー緒戦を決めるオープニングムービーが流れる。あれっ、OPあるんだ。てっきり、主題歌「Ready!! Steady!! Derby!!」は最後のスタッフロールとともに流れると思ってたし、今回は×数話じゃないからOPムービーはないものかと。とは言え、爽快感のある曲とともに台詞なしでメインキャラはこいつらです!トレーナーと出会いました!レースも勝ってます!すげえ!を2分かそこいらで済ませるのだから気持ちよかった。個人的にはレースをレコードで勝ったポッケを見て、「おいおい…こいつミーハーかと思ったらヤバいやつなんでは?」と顔を見合わせるタナベトレーナーとフジキセキのとこが好きです。
以下、当初はダラダラとストーリーを書きつつ感想を述べていたのですが、文章がやたらダラダラして完成しなかったので、やっぱり要点を挙げて語っていくことにします。
- アグネスタキオンの強さ
史実でも「幻の三冠馬」と言われることもあるアグネスタキオンだが、実際問題としてダービー・菊花賞には出ていない以上、本当に勝てたのかというのは何とも言えない。お話にするからには「出ていたら勝っていた」という可能性は無視できないわけだが…ただし、本作では「出ていたら勝っていた」と断言するわけではなく、主人公であるポッケが皐月賞でタキオンには敵わないことに自覚的になってしまい、ダービーで勝った時も先を走るタキオンを見てしまったという、あくまでもポッケ目線で「幻の三冠ウマ娘」であるタキオンが描かれる。なるほど、ダービーで勝ったポッケがそう思ってしまうなら、タキオンが出ていたらダービーを勝っていたのだろう。ここは競走馬を擬人化するからこそ作れる物語になっていて「ウマ娘」の妙味の一つに思える。しかし、だからと言ってダービーや菊花賞の勝ちの価値が落ちるわけではない。あくまでも可能性というものを誰も下げずに見せてきた部分なのが上手い。
- タナベトレーナーとフジキセキのコンビ
タナベトレーナーはかつてフジキセキを担当し期待を集めていたものの、フジキセキの故障により身を引いた過去を持つ。本作ではタキオンがレースから身を引いたことにより、ポッケのメンタルが不調になってしまう流れがあるのだが…。そうしたポッケへの向き合い方が、人間であるナベさんだから、ウマ娘であるフジさんだから、出来るアプローチになっているし、どっちかがポッケにアプローチしている時もどちらかは黙って見ている関係にある。「それは私には出来ないから任せる」という風な信頼関係に思えて良かった。
また、クラシックでの活躍を嘱望されながらもそれが叶わなかったという点ではフジキセキはポッケよりもタキオンに親近感があるはずだ。ここをどう料理してくるのかも本作において注目していたが、フジキセキとタキオンが直接絡むことはなかった。また、ナベさんがダービー前に荒むポッケに対して、あくまで自分の後悔を語った上で、タキオンほどのウマ娘が出走停止するのだから言語に絶えない事情があるはずと諭すのも、あえて言えば怪我してほしくないのもナベさんのエゴなんだけど、だからこそちゃんとポッケの荒んだ心を元に戻せるというか。それでいて身勝手なタキオンに共感も向けていて、誰かを悪者にはしないまま再起を促している。フジキセキとタキオンも直接の絡みはないのだが、クラシックを走れたはずの幻に囚われていてそれでも走りたいということをポッケに促し、自分も再起を期すということを通して、タキオンへの「正解」を示しているのも上手く作っている。RTTTでオペラオーの示した光がトプロを通じてアヤベさんに届くのを思い出す、こういう連関は好きな部分だ。
- 崩れる顔!溶ける体!
ホープフルステークスに挑む前の地下通路でポッケは初めてタキオンと邂逅するが、不意にタキオンに足を触られるとポッケは体がぐにゃぐにゃになる。有馬記念の後にポッケがタキオンに宣戦布告しに行く場面では、当初相手にされなかったポッケは腕が大量にあるダストダスみたいになってしまう(後ろの方のダンツもカフェに驚いて顔は崩れている)。まあここらへんはギャグ調だが、序盤でわりと顔芸(?)をやっているのは、普通にしているとイケメンなポッケに親しみやすい表情を強制的に引き出す意味合いで馴染めたところはある。腕が大量にある状態は言うほど親しみやすい表情か?それはともかくとして、後半に入るとレースシーンのクライマックスでもガンガン顔を崩してくるので、序盤のギャグでの表情崩しがここで効いてくると言うか、「そういうもの」の布石として意味があったように思える。
- 特に戦術とかはないレースとモブの描き方
本作でも当然のようにレースが描かれるが『シンデレラグレイ』や『スターブロッサム』のような戦略バトル面は薄い。ナベさんは基本ポッケの末脚頼みで、RTTTでトップロードの癖や作戦について一応触れていたのを思うとやや物足りない気もしてしまう。ただ、作戦などないからタキオンの強さが際立つし、史実でもダービーはダンツと、ジャパンカップはオペラオーとの一騎打ちになるのはその通りだし、実際の作戦としても叩き合いになると強いから叩き合いをしたということらしいので、衝撃波を出して顔を崩しながら叩き合う演出で合っているということになる。しかも本作で問題になるのはポッケのメンタル面なので、メンタルはボロボロだったけどそれなりに上手いこと走ったら勝てました、ではお話にならない。物足りなさはあるが、こういうレースの描き方が本作には合致しているのだろう。
他にレースで気になったのはモブだろうか。固有デザインがあるペリースチームさんはともかく他の偽名キャラは基本的にアプリにおけるモブのデザインを流用している。RTTTの劇場再編集版を観た時も感じたが、大画面だとモブがモブとして目立ってしまう。ここはTVシリーズがメインキャラ以外はモブにしつつも、モブに固有の色彩などを与えることで埋没させていなかったのと比べると残念なところ。特に大阪杯や天皇賞を観に行った個人的体験としては、GⅠ級の馬がごろごろ出てくるシニアGⅠはやはり格が違うのを感じた。それを思うと、ジャパンカップでモブではないのがオペラオー、ドトウ、トップロードの3人だけで、海外ウマ娘すら普通のモブだったのは「やべえやつばっかじゃねえか…」の感慨が画面上表現しきれてなくて歯痒い…(私個人はまさにシニアGⅠで「やべえやつばっかじゃねえか…」を体感したので)。
- ライブが唐突!
初見者から多く突っ込まれていた印象がある最後のライブは、ウマ娘を知っていてもやっぱり唐突に過ぎたと思う…。何よりジャパンカップで勝利→復帰したタキオンを交えて4人でレースに臨む!→ライブへ…は最後の最後で継ぎ接ぎが過ぎる(もっと言うとライブパートとエンディングの「うまぴょい伝説」が連続しながら全く別になってるのもあんま良くないと思う)。ジャパンカップの勝利の咆哮の後にはもっと負けた側のオペラオーたちの反応があっても良かったし、レースに向かうと思ったら次ライブになってるのはさっぱり繋がらないって。そもそもこのライブがウイニングライブなのかどうかすらわからない。劇場編集版のRTTTではライブ前のシーン追加があったが、絶対これが必要なのは本作の方だったって!ライブに向けてシーンを増やさずにどこか変えるなら、ダービー勝った後ポッケが栄光を浴びるシーンの中で1カットでもライブシーンを挟んでおけば良かったんじゃないかな。そうすれば少なくともウイニングライブの存在自体は周知できたのではないか。
- 新時代の扉って、なに?
本作自体が良作なのでついつい流してしまいそうになるがよく考えると副題の「新時代の扉」が何なのかはよくわからない。もちろん元ネタはジャングルポケットがダービーを勝った時の実況だが、別にウマ娘作中では海外出身にクラシックレースを解放したなんて話はないし…。ホープフルステークスでタキオン、ポッケ、ペリースチームがレコードを出すから、高速化の新時代?はたまた旧世代の覇王を打ち倒すから新時代か?どちらの観点も本作ではそこまで推されていないので、無理があるだろう。クラシック開放元年の話をするのは無理があるので、見たかったのはどちらかと言うとオペラオーを倒して「新時代」の方かな。オペラオーはジャパンカップ以前から負けてはいたが、新世代に負けたのはポッケが初だから一応そう見せられただろうし。
- 音楽面
RTTTと違ってこのキャラ・このレースだからこの音楽!という感じはあまりないが、新たな物語への鼓動、タキオンの見せる圧倒、ホラーじみた演出を盛り上げるべくその場での働きに注力したBGMが多い印象。どっちかと言うとSEの方が耳に残る使い方をされているのかもしれない。
主題歌の「Ready!! Steady!! Derby!!」は主題歌として決まりすぎていてOPのみの使用なのは正直もったいなさの方が上回ってしまう。RTTTだとOPは4話毎回流すけど本作は映画なのでOP作っても1回しか流れないからなあ。オーイシマサヨシの実力はグリッドマンでも十二分に思い知っていたが、この歌の作詞も本作の内容そのものでよくここまで書けるものだ。脱帽。
挿入歌「Beyond the Finale」はポッケの曲でジャパンカップで流れる。挿入歌なことやレース中もあってあまり歌だけを聞ける場面でもないが、とにかくクライマックスでカッコいい歌がかかるというそれだけで熱い。デジモンの進化や平成ライダーの戦闘挿入歌を思い出すよね。
ウイニングライブ曲「PRISMATIC SPURT!!!!」はライブそのものの唐突さも手伝って正直そこまで。いい曲だとは思うのだがどうしても「Ready!! Steady!! Derby!!」が良すぎて、4人の歌としても本作の内容としても極まっていない感じがある。
以下からキャラクターごとの感想。
ジャングルポケット
正直ポッケについてはアプリでも育成実装はされていなかったし、それ以外の出番もイベントストーリーとサポートカードでちょっと出たくらいなので、あまり馴染みがなかった。ヤンキー的なキャラが好きというわけでもなかったし。そういうのもあり、裏を返せば本作でどういう描かれ方をしてどう好きになれるのかが楽しみでもあったのだが…最初からやられたね。フジキセキのレースを見た感動がすっと入ってきて、もうそれ以降はポッケと感情が一体化してしまった。良い意味で裏表がないキャラなので、タキオンへのライバル宣言も、事実上の引退への怒りも、幻のタキオンに勝てないかもしれないと悩み続けるのも全てが腑に落ちるのだ。前作のトプロとはまた違う形で「主人公」だった。
加えて言いたいのは演じている藤本侑里さん。ほぼほぼキャリアがなく、ネームドキャラはこのジャングルポケットが初めてだし、そのまま映画主役まで行ったのは大抜擢だ。上坂すみれや小倉唯もいる中の大役は本当に大変だったと思うが、それがある種超然としたタキオンとカフェ、主人公として、凡人としてもがくポッケとダンツというのはキャスティングの妙を感じる。ポッケの台詞一つ一つが真に迫っていて、パワフルながら単に乱暴なだけではない、思春期だからこその繊細な部分を内包できていて聞き応えがあった。これからが楽しみだ!
ルー・メイ・シマ
ポッケの友達。モデルは史実のジャングルポケット産駒たち(ちなみに過去の偽名枠と違い、モデルの名前の一部を使っているスタイルなので、今回のキャラ名はあだ名で本名は「〇〇」です!とすればそのまんまオフィシャル化できるらしい)。直接関係ないけど「シマ」には親近感があります。ストーリー上はよくつるんでいたり、応援しに来るだけでそこまで意味があるわけではないんだが、レースとは関係なく気兼ねのない関係(ポッケとは上下関係があるわけではない)がほっとするし、TVシリーズでのスピカのメンツが単なる応援要員でしかないのにもったいなさがあったのを思うと、応援要員・チーム要員としてはこれくらいの3人のが好感を持てる。
アグネスタキオン
アプリでは★3以下なので簡単に入手できるのだが…。タキオンの妙味を一言で言ってしまうと自分勝手さにあると思っている。育成シナリオではタキオンはトレーナーを振り回す迷惑女なのだが、その真意が明かされることで実はいい奴…には全くならずやっぱり迷惑キャラじゃん!というのは…いやはや衝撃的だった。どこまでも自分の道を行き、それが何を引き起こそうが気にしない(ただしダイワスカーレットさん絡みは除く)。ただそれがキャラに対する悪感情にはならず、むしろだからこそ支えないとという方向に行くのが面白い。ただ、これはあくまで自分がトレーナーである限りの見え方であって、ポッケやカフェ、ダンツといった絡む同期が増えた中でどのように動いて、それをどう感じられるのかは未知数だった(ただでさえカフェは未所持ですしね)。
で、実際どうだったかと言えば…。タキオンは群を抜いて強いのは間違いなく、一方で走り続けたら足が壊れる未来が見えたので、皐月賞を最後のレースと決めて最強ぶりを見せつけ、後はその残光でも見ながら自分の代わりにウマ娘の神髄に迫ってくれたまえ…。タキオンが真意を説明しないのまで含めてタキオンの思惑が伺えるが…3人は3人でそれぞれの道へ進んでしまう。凡人のダンツが「あなたがいなかろうが私は走り続けるから」といきなり去り行く存在への正解を叩き出してしまうし、ダービーでの叩き合いを見て興奮するタキオンをカフェは「変な人…」と蔑む。いかな事情があれど、自分で走らないウマ娘は存在しないのと同じだし邪道なのだということを2人はもう示している。悩み多きポッケがタキオンに理解さえ示すようになってしまうと、本格的にタキオンは「終わって」しまう。タキオンもだんだん自覚的になってきてジャパンカップでやっぱ自分で走らなきゃ意味ねえじゃん!となるわけだが…。でもやっぱりこれで可哀想とか作中で「どの面下げてレースの世界に戻ってきたんですかタキオンさん?」とはならないのがタキオンの人徳(?)というか、まあこいつはこういう奴だからなで済んでしまうところがある。
基本的にタキオンは生き生きとしているのだが、それを支えるのが上坂すみれの好演なのは外せないだろう。カフェへちょっかいかけるノリってたぶん合法的に小倉唯にセクハラできるからじゃないの?のもすごい脂が乗っているし、何をやらせてもストンと落ちてくるのは流石ベテラン。
マンハッタンカフェ
実はアプリでは未所持。実装当時からカフェシナリオはタキオンVer.2のような装いと聞いていたのでずっと気になっていたのだが、そこから2年以上すり抜けでも来ず、引換券は他の娘を優先し、今でもデイリーレジェンドに来ていないのでお迎えできないまま映画に至ってしまった。そういうわけなのでカフェとはどういうキャラなのか、実体験による確信がないまま感想を綴ろうとしていることをお断りしておく。
そうした中でカフェと言えば、やはりアプリのタキオン育成シナリオの最後で急にタキオンにライバル認定され、終始「はあ?」というモードで展開したのが何よりの第一印象だ。タキオンはどこまでも身勝手なのだが、一方的なライバル宣言に全然乗ってこないライバルキャラ(?)は面白すぎるし、その後のサポカやイベントストーリーでもカフェはずっとタキオンには塩反応だった。と同時に、今年1月のイベントストーリー「おでんせ!和みの幸味庵」では同室のユキノビジンとの思いやりの応酬が描かれた。そちらでのカフェは善意に善意で返す本質的な善良さを感じさせた。カフェと言えば、オトモダチとの交信もキャラの一つで、そこはどう考えても常人には理解できないし、タキオンと一緒に旧理科実験室に追いやられているのも問題児な部分だと思うのだが、基本的なイメージは「(タキオンさえ絡まなければ)すごくいいやつ」になっていった。(タキオンさえ絡まなければ)と言うと、タキオンにだけ厳しいように見えるが、ほぼ100%悪いのはタキオンの方なので、カフェの「いいやつ」イメージは別に悪くならないし。
さて、映画でのカフェは菊花賞がほぼダイジェストにされてしまい、有馬記念もやらなかったので、レース面では弥生賞でゴホゴホやりながら走っているイメージが強い(ゴホゴホやりながら走った演技力は買うけど、そんな体調不良で重賞に出すなという思いが先行してしまうな)。一方でストーリーにおいては焦点化されないながらも、それが良い方向に作用しているとでも言おうか。カフェの目標は「あの子」に追いつくことであって、タキオンさえも「あの子」に追いつけなかった以上、去っていくタキオンに感慨もなく、しっかりと気持ちを持っている。また、ストーリー中で徐々に進歩はしている。序盤は旧理科実験室に来たダンツフレームにビビられていたので、恐らく交友関係もなくわりと怖がられていたように見えるが、カフェはダンツにコーヒーを勧めてくる。進んで人とは交わらないのかもしれないが、本質はいいやつなのがわかる。直後にタキオンの実験/ポッケの併走に付き合わされる時は「何で私まで…」とぼやいているので、他人と走るのは好きではなさそうである。それが夏合宿を経てジャパンカップ前にはポッケたちと自然に走っていて「もう大丈夫ですね」と後押ししてくる。彼女もポッケやダンツとの交流によって徐々に変わっていったのである。確かにレース面では消化不良だったが、自分の中のカフェのいいイメージがそのまま出てきたので満足はしている。
ところでちょくちょくユキノビジンと一緒にいるのは笑ってしまうが、OPでアヤベさんもいたのは何なんだろう。イマジナリーな存在との交信繋がりで気が合うのか?
ちなみに声優の小倉唯さんは『怪獣娘』でガタノゾーアを演じたこともあるので、『ウルトラマントリガー』でメガロゾーアを演じた(正確にはメガロゾーアの中のカルミラだが…)タキオン役の上坂すみれと実はウルトラ怪獣的な縁がある、と言えないこともない。
ダンツフレーム
本作のプリティー担当。個人的にキャラデザはほとんど一目惚れで、スポーティな勝負服が巨乳を含めたガタイの良さともマッチしている(ちなみに作画の都合上勝負服のデザインは一部簡略化がある)。良い第一印象をどう転がしてくるのか不安が半分はあったのだが…まあ概ね期待通りだっただろうか。レースが実質的にダービーで終わってしまったのは不完全燃焼だが、クセの強いメインキャラの中では潤滑油として機能しているし、レースから身を引いたタキオンに対し「凡人」ながらも、いやだからこそ「あなたがいなくても私は走る」「私は勝つためにレースを走っている」が言えるのは、まさに「ウマ娘」のあり方を体現していた。私は特別な才能もないし…とか宣うのと、皐月賞2着、ダービー2着、菊花賞5着という実績はあんま一致しないが、そこは本作らしいストイックさを感じるところでもある。好走できたとかでは満足できない、目指すは1着のみ。普通だからこそ「ウマ娘」の本能がより際立ったと言うべきだろう。
ところで、夏合宿シーンではビキニを着ていたにも関わらず全景は遠景のみ、アップになる場合も顔のみで大画面に水着の詳細は全く映らなかった。バカな…フジキセキの勝負服よりセンシティブだと言うのか…?
演じる福嶋晴菜さんは舞台ウマ娘のアンサンブルからウマ娘役を射止めた経歴を持つ通り声優としては駆け出しの部類に入る。もちろん映画出演も初…と思ってたら『グリッドマンユニバース』に出てるじゃん!その他大勢なのでどこかのモブなのだと思うが、奇縁を感じてしまう。それはともかくこの人は新人と舐めてかかっていると多芸なので藤本さんともども今後が楽しみですね。
テイエムオペラオー
予告やPVで00有馬記念が描かれることがわかってテンションが上がり、実際に00有馬記念による世紀末覇王完成描写は十二分に描いてくれて満足。ナベさんやフジさんがいい感じに「オペラオーは絶対王者。マークされて当然」「勝ちたいのは皆同じだ」「やりおったのう!」「あり得ないよ…ホントにすごい」と包囲網が真っ当な手段であること、それを跳ね飛ばして勝ったオペラオーは最強と意識付けさせてくれる。もっとも、そこからジャパンカップまで特に動向は触れられず、思ったより出番はない。ただやはり覇王モード全開なのでそれくらいの出番でも存在感は段違い。特にジャパンカップのレース中の演説は覇王そのものなのだが、有無を言わせぬカッコよさがあった。有馬記念もジャパンカップも必死に走っているので、「勝つべくして勝った」とはならないし、負けてなお格落ちしないからいいラスボスだったと思う。お話として覇王討伐を主軸にしなかったのは惜しさもあるけど、まあこれ以上やってもポッケの話を乗っ取りかねないので難しいところか。
フジキセキ
本作のヒロイン。いや…個人的にフジキセキはそんな好きじゃなかったし、アプリの育成シナリオも怪我に触れずに3冠クラシックやマイル路線に挑戦して普通に勝っちゃうのもあまり面白くないなあ(今作り直したら間違いなく怪我に向き合う内容になるだろう)と思っていた。いやあそれが、ねえ。前半でさんざんケガによる挫折が描かれてポッケに夢を託すのが描かれるのは沈痛だし、だからこそ後半にポッケを励ますために勝負服で現れ、共に再起するのが心に来る。この娘にちゃんとクラシック3冠を走らせてやりたかった…そう思ってしまう。思えば、アプリの初期実装のメンツは史実再現ではなく史実では叶わなかった「夢」を見せてくるタイプも多かった。ダービー後の怪我をあっさり乗り越えてしまうトウカイテイオーに、怪我をすることもなく歴代最強ウマ娘と戦うナリタブライアン…。当時は史実再現でないのに違和感もあったが、原作競走馬の挫折の忸怩たる思いがあるからこその育成シナリオだと理解できる。フジキセキについても本作があることでアプリの育成シナリオが救いに昇華されて良かったと思えた。
タナベトレーナー
声が緒方賢一さん。すっげえ聞き覚えのあるベテラン持ってきたな…。目が映るシーンは目が綺麗すぎるし、レースでよく泣くし…昔は純朴フェイスなので、あのサングラスやヒゲは舐められないためのものとしか思えない。
ナリタトップロード・沖田トレーナー
RTTTの主人公。レースシーン以外では序盤にポッケたちと並走した。沖田トレーナーまでちゃんと出たのは公開前情報にはなかったのはうれしかったし、有馬記念後でもまだまだ頑張るぞという姿が見られて良かった。RTTT3話の「もしもう勝てなかったら…」→「それでもトプロは努力しみんなそれを応援する」のアンサーがきちんと描かれたからうれしい。逆にトプロとポッケは同室なのだが、それによる絡みは1シーンしかなかったのはもったいなかったかも。
ペリースチーム
クロ〇ネ!クロフ〇じゃないか!残念ながら実名での登場は叶わなかったが、間違いなく01世代を彩る名馬をスルーするのはやはり無理だったので、固有デザインをもらっている(ペリー提督の服をイメージした勝負服がカッコいい)。本作はポッケ目線の話なので、ペリースチームは当初は有力の一角ながら後半はフェードアウトしてしまう運命にあるが、そこが偽名・固有デザインくらいの「重さ」と合致していた。こいつを焦点化したら全然別の話になってしまうのだが、ホープフルで一番人気だったことやダービーでも最初に直線に出るなど実力のあることは描きつつ、それ以上お話に関わらないのはいい処理だったと思う。皐月賞には出ておらずタキオンの狂気を見なかったという点でも本作のストーリーには絡めなかったのは妥当だしね。
シャインフォーエバー
今回もステイゴールドさんはウマ娘化しませんでした。ジャパンカップで4着なので映画に合わせてウマ娘化なんて絶好の機会かと思ったんだけど。と思ってたら6月にドリームジャーニーが実装されてそのシナリオ中でステイゴールドも登場した。あと少しタイミング早かったら映画にも出られたじゃん!ジャパンカップについてはシニアGⅠなのにネームドが少ないのが不満だったので、ステイゴールドがいれば少しは違っただろうのを思うと惜しい*1。オペラオーについてモブが「京都大賞典でも結果的に1着だったしな」と含みのあることを言ってるのでこの世界でもやらかしてる疑惑がある。
他の人たち
アドマイヤベガ:ふわふわお姉さんで本作では純然たるネタキャラ。特典小説によると復帰を目指してリハビリ中らしい。RTTTを経たアヤベさんがどうなっているのかについては、ドリームトロフィー・海外挑戦など色々予想はしていたが、リハビリ空間送りということになった。まあレースに出ていないとは言っていないのでそこは若干手心があるが。ネタキャラ化と言っても、トプロやカレンチャン相手に友達付き合いはしており、精神的な成長はうれしいところ(ここを勘違いして今後もずっとふわふわキャラだとダメなパターンとなる)。
メイショウドトウ:出番は00有馬記念での敗北とジャパンカップのみで、メインキャラと呼ぶにはやや厳しい。RTTTでもレースでの活躍はないのでカッコいいところは見せられず残念。でもRTTTと異なり今回はオペラオー流石ですう~部分はなく、ジャパンカップでも「勝ちたい」と言っているので、確かに宝塚記念を経てオペラオーのライバルになっているっぽいのはうれしいところ。
アグネスデジタル:画面の片隅でよく息を引き取っていた人。君も覇王討伐のメンバーだしタキオンのルームメイトなんだが…まあここも下手に深入りすると別の話になっちゃうのでその側面を完全オミットは妥当なところか。
キングヘイロー:00有馬記念では覇王包囲網には参画せず驚異的な末脚で4着に入っているのだが、今回はワンオブ敗北者。RTTT劇場総集編の追加シーンでは黄金世代打倒が高く掲げられていたので、その答え合わせとしての描写といったところか。でも台詞があったのはウララの保護者シーン。
ツルマルツヨシ:00有馬記念では発走直後にはちゃんと走っているも最終直線ではどこにもいなくなっている。史実通り競争中止してしまったらしい。うまゆる以外ではこれがアニメ初登場なのは、映画登場に喜んでいいやら悲しんでいいやら。99有馬記念の映像化に期待…。
ヒシミラクル:出てくるたびに何か食べてるイメージ。あまりにもゆるゆるすぎるが、個人的にはヒシミラクルは何もしなかったらただのモブなのが頭のおかしいトレーナーに見出されることで無理やり開花させられるというキャラなので、トレーナーにスカウトされる前ならこんなもんだろう。本作ではメインキャラではないが、ポッケの主戦の角田調教師にはヒシミラクルと気付かれていてデザインとキャラの強さは流石といったところか。
ライスシャワー:えっ?「ライスもいるよ!」だけのために石見さんを!?
サクラチヨノオー・メジロアルダン・ヤエノムテキ:ヤエノムテキはRTTTでシルエット登場していたが、動いてる場面では3人ともどもアニメ初出演。おめでとうございます!ちなみにヤエノムテキだけジャージを着て画面からフェードアウト気味なので初見時は「あれ?ヤエノもいたよな?」とやや不安で2回目でちゃんと確認できました。
まとめ
一言で言うと「良作」だろう。一つのスポ根王道物語としてはそつがなく、大画面の迫力と相まってハイレベルに仕上がっている。それに内容に汎用性というか、ギャグあり熱さあり、全体的にバランスがいい。数十年経ってもこの作品は古びることにはない、超時代的なメッセージがあるように感じた。それに加えてウマ娘やその関係者のカメオ出演も多く、ファンムービーとしてもうれしいものになっている。もちろん唐突なライブなど完全無欠、というわけではないが、不満点もシリーズを重ねていけば清算できるものが多いと思う。ライブはお約束になるだろうし、シニアGⅠレースの重みや戦略面についても今後シリーズが続いていけばそっちに注力した作品が現れるはずで、『新時代の扉』の不満点はどんどん相対化していけるはずだ。シリーズが続けば続くほど、起点としての『新時代の扉』は輝くのではないか。これがウマ娘の初映画で良かった。そういう作品だったと言える。
個人的には大画面で見られるウマ娘作品として、やはりレースシーンは格別だった。冒頭でも書いたが、実際に競馬場で見たレースと体感が同じなのだ。これを映画館で体験できたのはまさに映画体験だ。その上でアニメらしい最終直線の叩き合いも見応えは十二分で、競馬の擬人化作品として申し分ない。もっともだからこそ、シニアGⅠを初観戦した時の感動は足りてないようにも思えてしまうが…まあポッケが「やべえやつばっかりじゃねえか」とゾクゾクしてくれたので及第点にしておこう。
幸い興行収入もまずまず*2とのことなので、RTTTから続く一定期間を取り上げたアニメシリーズの今後にも期待したい。個人的な不満であるシニアGⅠの格やモブ多すぎ問題を解消するには…安直かもしれないが02有馬記念や03宝塚記念はウマ娘化しているメンツも多く、新時代の扉とも時代としては連続するので是非ともアニメとして見たいところだ。もっとも今年だけでも00年代の名馬が続々とウマ娘化しているのでティアラ路線でも短距離路線でもダート路線でもお話を作れる余地は大幅に増えた。正直ウマ娘の魅力にコンテンツ供給が追い付いていない感さえあるので、より多くのウマ娘が輝けるような舞台を今後も望んでいきたい。