漫画雑誌『イブニング』の休刊により、何と5月31日まで全話無料公開ということになった医療漫画『K2』。爆発的に読者が増え、「ギュッ」がネットミーム化するなど、その存在がより周知されることになった。詳しくは読め!(ギュッ)ということになるが、2話完結を基本とするテンポの良さ、肉体的にも精神的にも優れた医者であるK一族を中心に病や患者に真摯に向き合う作風が、様々な意味でとても読みやすいことが受けている一因であるのは間違いない。
そんな『K2』は『スーパードクターK』『Docter K』の続編でもある。前作は主人公のKAZUYAが亡くなって完結したが、Kの影の一族・神代一人とKAZUYAのクローンである黒須一也がドクターKの系譜を継承していくのが『K2』だ。要するに世界観が同じであるわけだが、『K2』とドクターKシリーズでは作風がやや異なる。『スーパードクターK』が『北斗の拳』×『ブラックジャック』と言われることもあるように、定期的に悪人や悪の組織と文字通り戦っており、時にトンデモに片足を突っ込んでいたのに比べると、『K2』は良い意味で地に足が付いていて巨悪との戦いというのはそこまでない。それどころか、不良やヤンキーのように見える人間でも基本的には善良なキャラ付けが多く、人の「悪意」自体がほとんど出て来ないのである。これもまた『K2』がもたらす安心感に繋がっているのは間違いない。
『K2』にも悪人・悪の組織自体は登場しており、現448話までの登場リストをまとめると以下のようになる(悪行をしていても病気のせい・実は善意だった等は除いた)。
話数 | 悪人・悪の組織 | 悪行 | 年次(だいたい) |
18~20 | 冴草 | 違法中絶手術 | 2005年 |
36~39 | 違法クローン組織 | クローン臓器製造 | 2006年 |
47・48 | 違法クローン組織 | 一也誘拐 | 2006年 |
52・53 | 城戸のコーチ | ライバル選手のドーピング | 2007年 |
55~58 | 違法クローン組織 | 一也誘拐未遂 | 2007年 |
85~89 | 違法クローン組織 | クローン臓器製造・一也誘拐未遂・殺人 | 2008年 |
126~130 | 鴨下病院 | 医療ミス隠蔽 | 2010年 |
289~291 | 麻薬密輸グループ | 麻薬密輸・船舶乗っ取り | 2017年 |
308~311 | ハッカーグループ | イカルスのハッキングによる医療過誤惹起 | 2018年 |
318・319 | 新美孝志 | 現金輸送車強盗・殺人 | 2018年 |
321~335 | ストーロジ・ジーズニ(命の番人) | 爆弾テロ・一也殺人未遂 | 2018年~2019年 |
339~342 | 野々原先生 | 殺人 | 2019年 |
366・367 | 佐渡社長 | 殺人未遂 | 2020年 |
374~376・378 | メルザ医師長とその部下 | 手術の中止による世継ぎ殺害未遂 | 2020年 |
378 | プロレスマスクショップ | マスク泥棒 | 2020年 |
447・448 | 強盗グループ | 強盗・強盗未遂 | 2023年 |
こうして見ると、確かに作品のイメージを作る初期において、違法クローン組織がたびたび登場するものの、それ以外はせいぜい麻上くんの元職場が医療ミスを押し付けていたくらいで、悪行自体がほとんど存在していないのがわかる。ところが、2017年あたりから今度は定期的に悪人・悪の組織が登場しはじめる。こういったことからは真船先生の嗜好が変化したというよりは、悪人・組織の登場による勧善懲悪を描きたい欲は常に存在していたと見るべきだろう。それでは2008年から2017年までの10年近く『K2』で悪人・組織が描かれなかったのは何を意味しているのだろうか?
実は、この期間にほぼ入っていく真船漫画がある。
それが『ウルトラマンSTORY0』である。『K2』でも枚挙にいとまがないほど特撮ネタが登場するが、真船先生はウルトラマンの公認漫画も手掛けていたのだ。連載期間は2005年から2013年。特に2009年からはウルトラヒーローたちが悪の宇宙人連合と戦う星間連合編がスタート。常に悪意を持った宇宙人との戦いになるのである。『K2』で悪人・悪の組織が見られなくなっていったことと時期的には一致する。
結論:『K2』で悪人・悪の組織が一時期出て来なかったのは『ウルトラマンSTORY0』にてアクションを伴う勧善懲悪成分が昇華されていたから。
なお、『STORY0』の連載終了から『K2』での悪意登場まで4年くらい空いてないか?という疑問は、『STORY0』の星間連合編で4年も悪意を描き続けたことによる一時的な飽和状態と思われる。何せ、星間連合編もラスボスのババルウの一個手前のテンペラーは、自身は星間連合の幹部の一人でありながら、独特のプライドを見せ、最期はゾフィーを庇って死ぬなど、こっちはこっちで『K2』のような「実はいい奴」的描き方をされていた。ずっと悪役を描いてるとやはり疲れるのではないだろうか。4年集中して悪役を描き続けたのでクールダウンにも4年かかったと見ておきたい。
ちなみに『ウルトラマンSTORY0』も「善」を基本要素とするウルトラマンと真船漫画の愚直なまでの勧善さの食い合わせがバッチリなので超おススメである。布教のためにも再版とか電子版出すとかしてくれ…。