志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

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【ネタバレ有】『グリッドマン ユニバース』感想―これがぼくらのユニバース

※この記事中には映画の内容に関するネタバレを大いに含みます。初視聴の驚きや感動を体感したい方にはおススメしません。

 電光超人グリッドマンは平成5年(1993)から翌年まで全39話が放映された特撮ヒーローTVシリーズだ。ということは、平成4年生まれの私としては直接的に知る由もない。幼少期には数歳年上の従兄からお下がりのおもちゃをもらったりもしていたが、それらはダイレンジャーカクレンジャーのロボット*1ウルトラ怪獣のソフビで、グリッドマンのものはなかった。ウルトラマン最新作として最初に記憶しているのもネオスで、その頃には円谷ヒーローと言えどもグリッドマンは影も形もない。私にとってグリッドマンは全然「馴染み」がないヒーローだった。

 その後『ウルトラマンマックス』でウルトラマンシリーズに復帰すると、当時の中学生らしく匿名の掲示板に入り浸るようになった。その中には今は亡き画像掲示板もあったが、そこでグリッドマンを見たのがおそらくファーストコンタクトとなる。ウルトラマンと同じウエットスーツヒーローながら、機械的な見た目。それにアシストウェポン。ゴッドゼノンもダイナドラゴンもアニメのロボットのようなメカメカしさが実写になることで、密度のある存在感!緑川光氏も仰っていたけど、まあ平成初期とは思えない超時代的なカッコよさだよね。もっとも当時はグリッドマンレンタルビデオなどないわけで、「何だかカッコいい!」で終わりだったのだが。
 そして、ウルトラマンゼロシリーズにて円谷ヒーローのリバイバルであるウルティメイトフォースゼロが登場すると、緑川光氏がミラーナイトの声を務めたことや、ジャンボットの外見がグリッドマンに似ていること、ULTRA-ACTにてグリッドマンが商品化されたことなど、グリッドマンが話題に上がる機会も多くなった。私もULTRA-ACTでグリッドマンを購入したが、何より外見の良さに、玩具上でウルティメイトフォースゼロの追加戦士的に絡ませられるのが大きかった。さらに平成27年(2015)1月には日本アニメ(ーター)見本市にて『電光超人グリッドマンboys invent great hero』が公開、同年のウルトラマン新作がサイバー空間も登場する『ウルトラマンX』で、ウルフェスにグリッドマンが登場したこともあって徐々にだが、確実にグリッドマン熱というものが、私にもウルトラマンのファン層にも高まっていった。
 そういうところで、平成30年(2018)には新作アニメ『SSSS.GRIDMAN』の放送が始まった。その頃でも原典のグリッドマンは未視聴だったが、グリッドマンの「本物」に触れあえるようになった。第1話オンエア時は半信半疑だったが、優れたストーリー構成やキャラ造形、アニメながら特撮を意識したバトルシーンなど、すぐに魅入られることになった。『SSSS.GRIDMAN』は思った以上に人気を博しており、令和3年(2021)に『SSSS.DYNAZENON』が作られることになる。『SSSS.GRIDMAN』のヒットによって、『電光超人』も再放送されたので、ここでようやく原典を視聴できた。グリッドマンの「カッコよさ」が私の血肉となっていった時間だった。

 そこで今回『グリッドマン ユニバース』が映画として公開されたのだが…もう感想なんて必要ないほど胸がいっぱいになった。何を言ってもお出しされた映像を形容できない気がする。無粋なのを承知の上で書き綴ってみようかと思う。

 本作を一言で言ってしまうと「フィクションの力を最大限肯定」ということになるだろう。作中事件はグリッドマンのイマジネーションが発端であり、最終決戦はグリッドマンが想像・創造したユニバースが実体化していくことが切り札となる。そうした作中の事情だけではなく、今作の「フィクション」にはメタ的なものも含まれている。グリッドマンを使って生み出された宇宙の数々とは、SSSSシリーズ以来氾濫したスピンオフのことでもあり、作り手がグリッドマンを商売道具に自由に創作していった全てを意味している。2代目の「君たちは虚構を信じることができる唯一の生き物なんだ」との台詞もカメラ目線で視聴者にも語りかけてくる。グリッドマンという存在から何を受け取り何をなしてきたのか、それら全てグリッドマンユニバースとしての「フィクション」の枠内に入ってくるのだ。
 一方でそうしたメタ目線から見ると、これまでの創作が単純に肯定されるわけでもない。グリッドマンの物語を下敷きにした学園祭の演劇の台本は何度もダメ出しされるし、ダイナゼノン組との共演世界はやがて暴走していくし、ラスボスのマッドオリジンはグリッドマンを独占しようとする。いずれもSSSSシリーズの作り手の内省が窺える仕掛けと言える。しかし、だからこそ…最後の「皆笑ってた」ことに含蓄がある。そんなのアリなのか?に対して、アリなんだ!だって俺がそう思うから!それが完全じゃなかったとしても!と強く答えられるその態度。『SSSS.GRIDMAN』に至らぬ点があったから―『SSSS.DYNAZENON』が虚構であっても前向きな物語を示したから、この結論に心を動かされずにはいられない。
 本作は真に「グリッドマンユニバース」なのである。グリッドマンという存在が生み出してきた全てのものが「グリッドマンユニバース」で、甘いも酸いも全て受け入れられる。それらが一旦収縮しさらに広がっていく。『SSSS.GRIDMAN』の段階ではあくまで一外伝としての完結が目指されていたものが、無限の広がりを持つ宇宙になる。そういった転換をダイナゼノンが担ってくれている。全てが有機的に紡がれていく、心地よい時空が画面から提供されていた。
 ここからはより具体的に。
 まず、『SSSS.GRIDMAN』の要素から。『SSSS.GRIDMAN』最終回は総決算にふさわしい回だったが、グリッドマンの電光超人としての姿が「本物」であったり、主人公である裕太の人格が実は全く出ていなかったり、六花との恋愛要素が実は鍵の一つだったのが唐突であったりと、確かに指摘されると気になる箇所はあった。今回は裕太が完全に物語を主導するし、六花に告白するかが本筋だし、最終的に得たグリッドマンの姿は皆の落書きが重なって宇宙になったなので、「最終回で足りなかった」という点を全てフォローしてきている。新条アカネやアレクシスの再登場もそれ自体があり得て良いのかというところから、無茶苦茶上手に仕上げてきた。特にアレクシスは味方でありながら、あくまでアカネに制御されている・最後に逃亡、それでも限りある命に価値を見出すようになっている(最終回のグリッドマンのパンチがちゃんと響いていた)というバランスが絶妙だった。
 次に『SSSS.DYNAZENON』。『SSSS.DYNAZENON』も『SSSS.GRIDMAN』を受けた作品なので、その反省点が最大限に盛り込まれており、もうTVシリーズで完結しきってるところはあった。本筋であるよもゆめもストーリーとしては完結しきった結果、ただのバカップルと化し進展となると実質プロポーズというすごいことになってしまった。すっかり浮かれポンチにめんどくさくなった夢芽さんだが、幸せを満喫しているのは間違いないし、蓬は「掛け替えのない不自由」として夢芽を好きなので無敵である。強すぎる。ダイナゼノン組はストーリーを進展させると言うより、雰囲気作りに貢献していて、それが『SSSS.GRIDMAN』サイドの世界の物語であっても、『SSSS.DYNAZENON』としての味を引き出せていたと思う。よもゆめの先輩カップルとしての恋愛主導もそうだし、ガウマさんとひめとの再会もそれ自体は虚構かもしれないが、ガウマさんの気持ちの折り合いとして意味があり、お土産のタラバガニ自体は実在しているという、本作の「フィクションを信じる力」へ説得性を与える描写として強かった。
 とは言え、やはり『SSSS.DYNAZENON』世界での「続編」も見てみたかった。蓬の友達グループとなみこ・はっす、アカネと怪獣優生思想といった関係でいくらでもダベることはできたはずだし、TVシリーズでストーリーが完結したと言っても、今回暦先輩は無職に戻ってるし、ちせちゃんの不登校も解決したのかは微妙なので、まだやること・見せられることはある。
 しかし、不安は全くない。創作論万歳で終わった本作は、後々どうとでもできる処理を残していった。グリッドマンは自分の弱さを自覚し、裕太にアクセプターを残していったし、続編となるボイスドラマ「アクセプターは鳴らない」でも裕六とよもゆめが簡単に再会できているようにグリッドマンユニバースの宇宙は全く閉じていない。『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』を前提としつつ両者の共演であるのだが、宇宙はより開かれた。この舞台で今後どうとでも作っていける。そういう下地として「グリッドマンユニバース」の爆誕を言祝ぎたい。引いてはそれがこの10年ほどグリッドマンと付き合ってきた私と宇宙との関係が肯定されているようにも思えるのである。

 後から見るとパンフレット表紙がすっごくネタバレなんだよね。ネタバレだとは見るまでわからないけど。

おまけ
  • 声ネタとはいえミラーナイトとジャンボットが画面に映ったのは「ふぉっ…?ふおおおぽおおおお!!!?!?」って心持ちでした。『ギャラファイ』回想での新撮があったとはいえ、大スクリーンに映るのは実に劇場版ジード以来5年ぶりか。ぶっちゃけ初見では前半3分の1くらいずっと脳内で「えっ?映った?映ったよね!?」してました。流石に中盤からは怒涛の展開なので忘れられたけど。彼らは内海が持っていたライブステージのパッケージで登場。ウルトラマンレジェンドやダークファウストら、声が同じネタで集められたメンツなのでめっちゃカオスだったが、実はアベユーイチ監督の裏設定としてアナザースペースの誕生にはノアやスペースビーストが関わっているので、ファウストとミラーナイト・ジャンボットは全くの無関係ってわけでもないのがちょっと面白い。
  • 今回の怪獣。ディモルガンは初見で「?グリッドマンっぽい…?」と思っていたらそれがアタリだった。ドムギランともども緑色を使っているのがアニメ怪獣っぽいよね(実写だとグリーンバックの都合上緑の使用が制限される)。ノワールドグマは洗練されていない昭和怪獣みがあって、それが大量発生にも無双対象にもハマっていて良かった。ソフビが出たらいっぱい買いたい怪獣だ…って劇中再現しようとしたら何体必要なんだ!?全員名前が「GRIDMAN」のアナグラムになってるのはよく考えたわ。
  • もう誰もが言ってるけど、最終決戦でのインスタンス・アブリアクション!→よもゆめ→「ダイナゼノン!バトルゴー!」からの「インパーフェクト」は脳内麻薬ドバドバですわ。ここからずっと盛り上がるのが10分以上は続くんだけど全くダレない。ここだけでも映画館の音響で受け身になって体感する価値は十分以上にある。
  • カイゼルグリッドナイトはダイナゼノン目線で見ると、客演してきたグリッドナイトに主導権を持っていかれてしまったような落ち着きのなさがあったのだが、ローグカイゼルグリッドマンは本作自体がグリッドマン主体な上、ダイナゼノンの竜としての足や尻尾の意匠が残されていて、「共演」としての姿になっていてとても良かった。
  • 内海…本当にいいやつだよな。別に何かの役に立つわけでもないし、デリカシーもないが、そういうやつが傍にいることでの心地よさというのは間違いなくある。でもどう見てもはっすと付き合ってる上、それを裕太に言ってないっぽいのは…(末永く幸せにな!)。
応援上映の感想(4月17日追記)

 『グリッドマン ユニバース』は公開後の反響が良かったようで、応援上映が全国の上映館で実施されることになった。いきなり身の上話になるが、齢が30を超えると「今体験しておかないと今後機会がないのでは?」という焦りが生まれてくる。応援上映も話は聞きつつもこれまで経験がなかった。ということは…?もう「渡りに船」しかあるまい。応援上映がどのようなものであれ「今」体験しておかなければ、今後応援上映というものに向き合うことも出来ないのではないか。そんな思いを胸に応援上映に行ってみた。
 …。
 応援上映なかなか楽しかった!まず全然静かじゃない映画館というのが新鮮で良かった。声を出しても、ペンライトを振っても誰も怒らない空間が映画館というのも面白すぎた。やっぱり初めてなので慣れない感覚はあったが、進んで声出しやってるお姉さんとおっさんがいてそれに引っ張られる形で雰囲気を掴むことができた。どうしても全体的に陰キャがヤケクソで声を出しているのは否めないが、皆で応援することで謎の一体感が生まれる。主題歌メドレーシーンで合唱になるのも楽しかった。
 一方でかなり体力は使った。声出しだけじゃなく拍手もしたし、客席全体が興業の一部でもあったので、画面は通常より小さく見えたし、体感上映時間も1時間くらいに縮まるほどだった。映画鑑賞に疲労感が伴うが、これも心地よいものだ。何より作品自体が応援するに足るものということも大きい。得難い経験になってほっとしている。

*1:隠大将軍をもらっていたがゴッドカークだけなぜかなく主にゴッドガンマーだけで遊んでいた記憶が…