志末与志著『怪獣宇宙MONSTER SPACE』

怪獣monsterのコンテンツを中心に興味の赴くままに色々と綴っていくブログです。

和泉下守護細川家列伝

 そう、僕は気付いたんだ。ずっと宿題忘れてた…ではなくて、和泉下守護家の(正確な)系譜がネット上にも手頃な本にも転がっていないことに。ぶっちゃけローカルなネタはこういうことが多い。そもそもとして、少し大きな通史として展開されると書き飛ばされてしまうくらいの話なのである。その時の和泉下守護が誰であったか、どのように動いたのか。畿内史であっても、そんなことは書かなくても政治史・文化史は成り立ってしまう。そんな叙述が定着しているのだから、和泉下守護の系譜が研究が進展しても周知されないのは当然なのである。今後も和泉下守護をメインに据えた図書は研究書ですら出る可能性は低いのではなかろうか。
 しかし、だからと言ってこのような状況で放置されて良いわけではない。近年のレベルの高い研究書や概説書であっても、こうしたローカルネタに触れる際、ふっと旧説が出てしまうことがある。こうなると「この人はこの分野では最新鋭だけど、それ以外の最新研究は共有していないのだな」と思ってしまい、とても惜しい(もっともこの点に関しては私も人の事をとやかく言えるものではなく、他山の石としたいものである)。和泉は五畿内を構成する要国である。にも関わらず、どうであったのかが今一つ共有されていないと、ボロが出るのはここから…ということになりかねない。そういうわけで、和泉下守護について、現在の系譜や論点を試みにまとめてみた。
 正直どこからどこまでまとめるべきかは悩んだ。偉そうなことを言いつつ、旧説を引っ張っているかもしれないし、重大な誤謬や見当はずれな問題提起をしているかもしれない。そういった箇所はご叱正を賜りたい。そもそも素人の私がまとめなくても、偉い先生が本出してくれよと言いたい気持ちもあるが…

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「ウルティメイトフォースゼロ~Side Story~」感想(1)+心構えについて

 ウルトラマンゼロ10周年記念生配信トーク番組「ウルトラマンゼロ TALKish」にて、目玉の一つとして発表されたのがTSUBURAYA GALAXY内連載小説「ウルティメイトフォースゼロ~Side Story~」でした。TSUBURAYA GALAXYは円谷作品をより楽しむための有料サイトで、限定コンテンツも多くあります。そうしたものの一つとしてウルティメイトフォースゼロが抜擢されるのは、「金になる」と見なされているということで、若干の安堵がありますね(私もまんまと釣られているので大成功ですね!?)。
 さて、内容としては『ウルトラゼロファイト』と『ウルトラマンジード』の間を埋めるオリジナルストーリーと宣伝されています。全6話でウルティメイトフォースゼロの各員が主役のストーリーが1話ずつ紡がれる模様です。書き手は池田遼氏。正直この手のものは足木淳一郎氏がよく書かれている印象があったので、池田氏というチョイスは少し意外でした。とは言え、池田遼氏も『ウルトラマン列伝』以来総集編構成などを歴任しておられますし、特にハズレというわけでもないですね。
 そういうわけでウルティメイトフォースゼロの新たな物語が始まることになり、基本的にとても喜ばしいということになったわけです。ただし、「基本的に」は含みがありまして、読み込むにあたって不安と言いますか、心構えが必要なこともあります。まずはそういったことから語っていこうと思います。
 周知の通りウルティメイトフォースゼロは『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』で初登場しました。この映画は製作期間が短く、そのため監督を任されたアベユーイチ氏が脚本も手掛けています。つまり、『ゼロTHE MOVIE』のストーリーライン、キャラクターに占めるアベ監督の比重というのはものすごく高いわけです。しかも、アベ監督は大変魅力的なアイデアマンで、『ゼロTHE MOVIE』についても世界観やキャラ設定に深く関与する裏設定を豊富に持っています。公認トークイベントなどでその一端をお聞きしたこともあるのですが、アナザースペースにおける世界観の成り立ち、「あれはそういうことだったのか」というものがわんさかでした(ちなみに当たり前ですが、内容は口外できません)。

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令和2年(2020)の日本プロ野球

 今年は新型コロナウィルスCOVID-19のせいでプロ野球にも色々な影響があった。開幕が遅れたり、観客制限があったり、選手にも感染者が出たりクラスターが発生して、「例年通り」というわけにはいかなかった。こんなことを言うのも何だが歴史的に「面白い」シーズンではあったのだろう。ただ、個人的にはあんまり熱を入れて見られなかった。プロ野球というのはやはりファンを巻き込んだ興行なので、ファンの熱が可視化されるかどうかは、ファン自身のモチベーションに関わるのだな…と今更ながら思うのであった。さらに言えば、今年は(も)広島東洋カープオリックスバファローズは弱かった。よく「落ち目の時こそ応援するのが真のファン」などと言うが、贔屓のチームが負けるのは普通に精神衛生上良くない。精神の安寧を保つために弱いチームへの思い入れを控えて行くのは、水が上から下に流れるように自明なのだった…とこれまた体験してみて今更のように以下略*1
 そういうわけで今年に関しては、はて何があったかなと覚束ないことも多いのだが、それでも思うことはあるので、書き綴っていくことにしよう。

*1:直接関係ないが、この点で言うと関西民にとっての阪神タイガースはまさしく宗教である。贔屓が負けるのは精神衛生上良くないからちょっと距離を置こう…なんて考えは存在せず、否応なく享受させられる(からこの記事でも阪神の項目がある)

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南丹市立文化博物館・秋季特別展示「八木城と内藤氏~戦国争乱の丹波~」

 南丹市立文化博物館にて秋季特別展示「八木城と内藤氏~戦国争乱の丹波~」を観に行って参りました。
f:id:hitofutamushima:20201030204100j:plain
http://www.be.city.nantan.kyoto.jp/hakubutukan/tenji_kikaku/2020/yagi.pdf

 丹波内藤氏をテーマにした展示という時点で興味を惹かれるものでしたが、展示目録を見るとこれがまたすごい。内藤宗勝の文書が目立つ印象はありますが、元貞、貞正、国貞、永貞、貞弘と歴代内藤氏当主の文書がズラリ!ここまで歴代当主の重要文書が揃う機会は今後もなかなかあるまい…ということで意欲としては万端ですね。特に大きいのは内藤永貞を歴代当主に数えていることです。永貞は国貞の嫡男と思されている近年発掘された人物で、この人物をきちんと認識しているということは最新研究を取り込んでいるわけで、その時点で目配りが行き届いた内容になるだろうと認識できます。

内藤永貞については以下の論考を参照のこと。

osaka-ohtani.repo.nii.ac.jp

PDF公開されているので読みやすいです。

  • 飛鳥井拓「内藤永貞の基礎的考察:「龍潭寺文書」所収内藤永貞寺領安堵状の紹介」『丹波』21号

ci.nii.ac.jp

地域雑誌なので入手にハードルはありますが、永貞文書を網羅しています。

 ちなみに南丹市立文化博物館は駅からはやや離れているので行くまでのレポートを付けたいと思います。そんなんいらんわって人は「スキップ」で飛んでね。

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木下昌規『足利義晴と畿内動乱―分裂した将軍家』(中世武士選書・戎光祥出版)の感想

 近年の畿内戦国史研究は目覚ましい成果が上げられているが、当然ながら室町幕府研究もその一角を形成している。ではその実像はどうであったのか、という点は最近『戦国期足利将軍研究の最前線』が出たので、これまでの通説を見ながら最新像を手堅く、それでいて易く提示するにはこれが一番わかりやすい。

戦国期足利将軍研究の最前線

戦国期足利将軍研究の最前線

  • 発売日: 2020/06/01
  • メディア: 単行本

 ただし、『戦国期足利将軍研究の最前線』は基本事項に重きを置いている。と言うのは、何だかんだ戦国時代は100年あるのであり、その中で幕府機構も少なからず変質しているのだが、どちらかと言うと普遍性・一般性のある事柄を解説するようになっている。戦国期幕府を語る際の前提の再提示・共有という点では優れているのは間違いないが、移り変わる状況の中で幕府や将軍はどのようにそれらに対処し生き残ったか(または対処できず生き残れなかったか)という点に強く迫るものではなかった。特に幕府の首長である将軍の個性についてはそこまでページが割かれてはいない。
 もっとも足利将軍の個性についても近年は様々な著作が上梓された。代表的なものを挙げると、『室町幕府将軍列伝』、『室町幕府全将軍・管領列伝』、『足利義稙』、『足利義輝・義昭』などである。

室町幕府将軍列伝

室町幕府将軍列伝

  • 作者:清水克行
  • 発売日: 2017/10/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
室町幕府全将軍・管領列伝 (星海社新書)

室町幕府全将軍・管領列伝 (星海社新書)

  • 発売日: 2018/11/01
  • メディア: 新書
足利義稙-戦国に生きた不屈の大将軍- (中世武士選書33)

足利義稙-戦国に生きた不屈の大将軍- (中世武士選書33)

  • 作者:山田康弘
  • 発売日: 2016/05/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 いずれも好著であり、戦国期足利将軍について重要な視点と提示を孕んでいる。特に『足利義稙』、『足利義輝・義昭』は戦国期室町幕府研究の大家・山田康弘氏が筆を執られていることもあって、足利義稙、義輝、義昭の再評価に熱が入っていて、大いに読み応えがある。
 こうした風潮の中で個人的に存在感を浮上させてきたのが足利義晴である。義晴の存在感浮上は単に義稙と義輝の評伝が出る中、2人のミッシング・リングに位置することも大きいが、それだけではない。村井祐樹氏が昨年『六角定頼』を上梓されたが、定頼にとって義晴は「天下人」であるための信任の源泉であり、義晴が「定頼に任せよ」と言わねば定頼の地位も成り立たない。また、馬部隆弘氏は波多野秀忠や木沢長政といった畿内下剋上の雄が「守護」として認められる過程で義晴との直接的な繋がりを指摘された。思えば、古くから義晴は「堺幕府」によって地位を追われたとされたり、政権機構の整備に内談衆を置いたり、研究成果自体は少なくなかった。このように足利義晴はいくつものトピックに包まれながらも、常に客体である将軍でもあった。
 しかし、戦国期幕府・足利将軍とその周辺の研究が進む現今、足利義晴が「主役」となる条件は揃った。そう感じていたところに、戎光祥出版さんの中世武士選書から足利義晴が出るというではないか!何という機を見るに敏な出版であろうか。

www.ebisukosyo.co.jp

足利義晴と畿内動乱―分裂した将軍家 (中世武士選書44巻)

足利義晴と畿内動乱―分裂した将軍家 (中世武士選書44巻)

  • 作者:木下昌規
  • 発売日: 2020/09/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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柳本元俊は柳本賢治の息子か

 柳本賢治という人物をご存知だろうか。戦国武将の中では大して有名というわけではないし、一般知名度は絶望的であろうが、畿内戦国史を少し齧っていればどこかで名前くらいは見たことがあるはずである。柳本賢治細川高国政権の消長に深く関わっている人物であり、兄である波多野元清とともに賢治が高国から離反することが、高国滅亡のトリガーであったのである。ただし、離反後の賢治の動向はこれに乗じて渡海し高国を打倒することになる細川晴元やその配下の三好元長に収斂されてしまい、歴史叙述の中では埋没しがちであった。
 そうしたところ、近年馬部隆弘氏が三好権力の萌芽を細川権力に求める研究に励まれたことにより、柳本賢治は注目を浴びることになった。細川晴元・高国双方が在京できない中、賢治が独自に京都支配体制を構築していたことが明らかになったのである。しかし、馬部氏の研究は賢治、そして後継者の甚次郎が戦死するまでを視野に入れたものであるので、その後の柳本氏の動静は明らかではない。
 固より本記事はその後の柳本氏がいかに振舞ったかを明らかにするものではないが、細川晴元期には柳本孫七郎元俊なる人物の活動が見られる。賢治と元俊の関係性くらいは明確になるべきだろうと考え、小文を認める次第である。

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【ネタバレ有】『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』感想

※この記事中には映画の内容に関するネタバレを大いに含みます。初視聴の驚きや感動を体感したい方にはおススメしません。

 令和2年(2020)8月8日に『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』を観て参りました。本当は3月公開だったのが、新型コロナウィルスCOVID-19によるコロナ禍で公開中止となり、その後本当に公開されるのかと危惧されたこともあって、とりあえず無事公開できてほっとした面持ちであります。
 さて、いつもなら前置きをダラダラ書いてから、これがどうだあれがどうだと言っていくところなんですが、今回は特にありません。個人的な感想ですが、TVシリーズウルトラマンタイガ』自体がとてもふわっとした感触のまま、しかも公開延期でここまで来てしまったので、何が望めるハードルなのか具現化できなかったんですよね。そりゃトライスクワッドもニュージェネレーションヒーローズもイージスも活躍はしてほしいのだけど、何があれば「よっしゃ!」と思えるのか、ここは出たとこ勝負といったところでした。

 ただ、一つ言っておくとしたらウルトラマントレギア物語」(『ウルトラマンタイガ超全集』掲載)ですね。トレギアは去年の『劇場版ウルトラマンR/B』が初登場だったわけですが、その時は素性について何ら設定はなく、設定はすぐには設けず便利屋として使いまわしていくキャラクターなのかなと予想していました(以下参照)。
monsterspace.hateblo.jp

 ところが、当初の予想に反してトレギアは『ウルトラマンタイガ』でかなり詳細な設定を付与されます。光の国出身であり、タロウの親友でありながら闇に堕ちたウルトラマン…『劇場版R/B』では無色透明だったのが急速に色を付けられた格好です。しかも話が進むにつれ、タイガスパークを開発した科学者であるということが明かされ、キャラクターとして色付いていくと同時に、私としてはキャラクター理解がよくわからなくなってきました。タロウの親友であり優秀な科学者であるという過去と、愉快犯的に振舞い光と闇の区別や絆を憎む現在は距離がありすぎ、一体何があったらこうなるのか予測できなかったからです。直言すれば、後付け設定をその場その場で付けたせいでキャラクターの輪郭が失われているとさえ感じました。
 それゆえに「トレギア物語」には驚きました。タロウと親友であったこと、タイガスパークを開発したこと、闇堕ちしたこと、何度倒されても復活できる理由…全てが矛盾なく成り立っている!やはりプロの作家は違いますね。いつから考えられていたのかは存じませんが、上手くまとめられています。『タイガ』ではトレギアが何をしたかったのか、何を言っているのかよくわからないまま流していた言動もあったのですが、これを読むと全てが繋がる、トレギアの台詞として響いてきますね。まあこんな大事な話を超全集の付録だけで終わらせるのもどうかなって思いもありますが…(近年超全集は高額化しているので敷居が低いとはなかなか言えません)。
 そういうわけでトレギアについては頭の中でどんなキャラクターかという整理はついていました。今回の『劇場版タイガ』のトレギアもこの延長上に理解できるキャラだったので、『劇場版R/B』や『タイガ』を経てもトレギアが何なのか納得できないという方は「トレギア物語」を読んでおくことをおススメします。

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